REPORT
2025/04/15

地域と出会い、地域に貢献する。デジタルアートをその証とするためのアーティストによるフィールドワークレポート

日 程
10/17
場 所
静岡県

JR東海が提供する「ずらし旅」の新たな取組となる「エシカル特典」プロジェクト。地域の個性を表現し、地域と乗客の接点を創り出すために、本プロジェクトでは各地域特有のデジタルアートを、貢献の証として新幹線の乗客に届けていきます。 

本レポートでは、公募により選定されデジタルアートの制作を手がけている2名のアーティストの紹介や、アーティストが訪れた2つの連携地域のなかで、浜松市水窪エリアへのフィールドワークの様子についてレポートします。 

INDEX

  • アーティストの紹介
  • 水窪でのフィールドワーク
  • 2日目(2024/12/23)水窪の歴史を訪ねて

アーティストの紹介

おぐまこうき 

 


イラストレーターを中心として活動されており、保育士の経験もあるおぐまさん。空想を膨らませ、ユニークで明るい世界観を、絵や物語、絵本やZineなどで表現しています。 



tsumichara 
 


2019年から自身の会社の経営の傍ら、アーティスト・デザイナーとして活動を開始。テクノロジーを活用した作品を製作しており、人間の感覚、社会課題、時代性、自然との関係などさまざまなコンセプトに焦点をあてています。 


 


水窪でのフィールドワーク

-1日目(2024/12/22) 水窪の町を眺めて-
 

集合場所は愛知県・豊橋駅。JR飯田線・特急伊那路に乗り込み、水窪へ。険しい山々に囲まれた線路は橋やトンネルを何度も通り長野県の飯田方面へ抜けていきます。道中の車内には、『飯田線ものがたり: 川村カネトがつないだレールに乗って』(2017新評論)の著者である太田さん・神川さんに同乗いただくことができました。 
 

「飯田線は1937年に全線が開通したのですが、その前身にあたる路線の最難関区間を敷くための測量を担当したのは川村カネトさんというアイヌ民族の方なんです。」 
 

北の大地からはるか遠く離れた浜松の辺境の地に、アイヌの足跡があることはにわかに信じ難いですが、お二人の話によると、急峻な山々が連なるこの地では、熟練の測量士の存在が必要不可欠で、そこで招聘されたのがアイヌ民族の川村カネトさんたちだったそうです。この歴史を伝えるべく、お二人は執筆活動、地方紙への寄稿など精力的に活動されています。 

飯田線を利用する人々を影で支えたアイヌ民族の勇姿と飯田線の歴史に思いを馳せ、約90分の旅路の末、午前11時半頃水窪駅に到着しました。小高い丘に位置する水窪駅からは市街地を一望でき、急峻な山々が町を囲っています。線路沿いには澄みわたる渓流が流れ、自然と市街地の距離の近さを強く感じました。 
 


まずは、最初の目的地であるライオンカフェに向かいました。 
 

東京から移住した冨士川ご夫妻の奥様により営まれているカフェで、空き家になっていた古民家をリノベーションした木の温もりを感じる内装のお店です。ご主人が腸内細菌の研究をされていることもあり、メニューの中には発酵食品や麹を扱ったものも並んでいました。 
 



 


心も体も健康になる優しい味わいでありつつも、発酵によるうまみが食欲をかきたて、軽々と完食してしまいました。店主の方やアーティストの方との交流もはずみ、親睦が深まったところで次の目的地へ向かいます。 


【ライオンカフェ詳細】 

アクセス: 水窪駅から徒歩5分  

https://maps.app.goo.gl/MJ8P9F1YURQdFwKj6 

営業日:11:00~16:00(日、月、火のみ営業) 

インスタグラム:https://www.instagram.com/lioncafe3/ 



 

続いて一行が足を運んだのは、こちらも水窪の移住者と地元事業者が共同で運営するセレクトショップ兼カフェの「水窪の星の駅 碧 -AOI-」。店内には地域の特産品、オーガニック食品、環境に優しいプロダクト、こだわりの雑貨などがずらりと並んでいます。 



はじめに、碧の代表をつとめる宇佐美さんのお話をお伺いしました。ダンサーとして活躍している宇佐美さんは、自然や地球環境問題にも高い関心を寄せており、水窪の自然のもつパワーに魅せられて、水窪の森を譲り受けたそうです。現在は、碧や森や川を起点に、共感する国内外のアーティストを呼び込み、アーティストインレジデンスや環境問題に関する啓発活動、空き家の活用など幅広い活動を行っています。 
 


浜松市水窪支所の三輪さん、熊谷さんも入り、自然や地形の文脈から水窪町の解説をいただきました。水窪町の面積の96%を森林が占めており、そのほとんどが、スギやヒノキなどの人工林の針葉樹林であるそうです。水窪町の南北を貫くように中央構造線が走っており、ヒマラヤ山地よりも土地の隆起の速度が早いと言われています。山に囲まれていることから、外部との交流が少なく、種の交雑が起こりにくかったため、水窪じゃがた(じゃがいも)をはじめとする在来種の農産品が多く残っているそうです。このようにユニークな自然を残す水窪町ですが、少子高齢化の影響により、豊かな自然を後世に残す担い手が不足しているという厳しい現実を突きつけられています。 


【水窪の星の駅 碧 -AOI-の詳細情報】 

アクセス: 水窪駅から徒歩4分  

https://maps.app.goo.gl/n5K7e5ThotLMQjS48 

営業日:10:00~17:00(月曜定休)(夜はご予約で21:00まで) 

定休日:夏季・月、冬季・月火水 

お店の情報:https://misakuboaoi.earth/ 

※店内お食事はご予約制 


続いて三輪さん、熊谷さん主導のもと、商店街の街歩きを行いました。 

山の起伏に沿って斜面がゆるやかに続く町を登り、まずは水窪商店街にさしかかりました。 
 


シャッターが降りたお店が並び、閑散としていました。祭りのときには、この商店街が華やかに彩られると聞いていたので、ケの日とハレの日のギャップを強く感じました。しかし、一見閑散としているように見えるものの、商店それぞれの企業努力によって存続し、地域コミュニティのハブとして機能しているお店も多数存在しているそうです。 
 


ここ「スーパーまきうち」もそのひとつです。ここは町内に2つあるスーパーの一つであり、水窪に暮らす人々の生活を支えている地域の拠り所となっています。海から距離のある水窪町ですが、スーパーまきうちは魚の仕入れに力を入れており、新鮮な魚を購入することができ、地域住民に重宝されています。 


【スーパーまきうちの詳細】 

アクセス: 水窪駅から徒歩8分  

営業日:9:00~18:00(日曜定休) 

インスタグラム:https://www.instagram.com/super_makiuchi/ 


商店街を抜け、さらに坂をあがると、水窪小学校が見えてきました。町内唯一の小学校であり、全校生徒数は22名。水窪中学校(全校生徒17名*)とともに、存続が危ぶまれています。 

*R6年4月地点 


街を観察したあとは、浜松市水窪支所で三輪さん・熊谷さんから水窪町の概要紹介をしていただきました。データで街を見ることで、さらに水窪町への解像度が高まりました。「水窪祭り」や「峠の国盗り綱引き」、「虫送り」など水窪を代表する行事の映像資料も鑑賞し、水窪の人々の営みの理解を深めました。水窪支所のお二人の熱心な解説にアーティストの方々もメモをとりながら傾聴し、積極的に質問を交わしていた姿が印象的でした。
 


その日の夕食は、スーパーまきうち特製のスペシャルオードブルを囲んで親睦を深めました。
 


アーティストによる自己紹介や作品紹介も行われ、お二人のアートのもつパワーが地域の未来を紡いでいく期待が膨らみます。1日目にして、水窪町に関する大量の情報をインプットしたうえで、お二人は「まだまだ消化しきれていない部分が多いですが、作品づくりのヒントとなるものをたくさん吸収できました」という旨のコメントを残していました。 
 



 


2日目(2024/12/23)水窪の歴史を訪ねて

1日目よりさらに気温が落ち込み、骨身に染みるほどの冷気がつつむ朝を迎え、最初の目的地である民俗資料館に足を運びました。資料館鑑賞に先立って、南信州から水窪付近に伝わる伝統的な正月飾り「男木」づくりを見学させていただきました。門松と同様に、正月各家庭に、豊作や家族の健康、幸福をもたらすために訪れる「年神様」(としがみさま)が降りてくる目印とされています。年々、男木を飾る家庭は減っていますが、ここ水窪民俗資料館では文化伝承のため、こうして毎年男木を飾っているそうです。 
 


資料館には、縄文時代の人々の営みを支えてきた土器や農耕具、江戸時代の秋葉街道・信州街道の宿場町として発展し、江戸幕府直轄の天領として栄えた歴史を表す資料、明治から大正にかけて栄えた養蚕・製糸業に欠かせなかった機械や道具など、水窪の歴史の変遷を語る上で必要不可欠な遺産の数々が展示されていました。 
 


続いて、天竜区観光協会水窪支部の事務局を務める井上さんにご同乗いただき、標高1,100メートルの山住峠に鎮座する「山住神社」へ向かいました。
 


昼食を済ませ、観光ボランティアガイドの方にもご同行いただき、次なる目的地である高根城と水窪ダムに向かいました。 
 


高根城は、南北朝時代に水窪一帯を支配していた奥山氏が築いたとされる山城です。その後、武田信玄の力が及ぶようになると、武田軍の拠点として大改修が行われ、現在は、写真にあるような井楼櫓などが復元されており、今回特別に中に入らせていただきました。
 


櫓の頂上や、北側の広場からは水窪の町並みを一望することができ、敵襲をいち早く察知する工夫が散りばめられた作りとなっていました。 

水窪の観光のシンボルとして愛されてきた高根城に別れを告げ、最後の目的地「水窪ダム」へと向かいます。 
 


岩と粘土を積み上げた日本でも数少ないロックフィル式ダムである水窪ダムは、水力発電のための貯水を目的として水窪川の支流・戸中川をせき止めるように建設され、昭和44年に竣工しました。 


2日間の水窪フィールドワークを終え、再び「水窪の星の駅 碧」に戻り、振り返りを行いました。アーティストにとって、たくさんのインスピレーションとなるような水窪の要所を巡る濃密な2日間を振り返り、それぞれのアーティストからコメントをいただきました。

Tsumicharaさん 

「一見でわかる観光地ではないですが、ガイドさんや地域の方々のおもてなしから、あたたかな人々の気持ちと水窪の魅力が伝わってきました。この思いを伝えられるように責任持ってアート製作に取り組んでいきたいです。」 


 

おぐまこうきさん 

「この2日間は本当に盛りだくさんでしたが、独特で魅力的な街だなと感じました。自分のなかで2日間で得られた体験を消化するまでに時間がかかると思うのですが、じっくり噛み砕いて、作品に落としていきたいと思います。」 


続いて、三重県尾鷲市でも同様にフィールドワークを行い、フィールドワークで得られたインスピレーションをもとに、2ヶ月間でアート制作を行います。 
 

2025年5月には、JR東海のずらし旅の体験クーポンとして、デジタルアートを手にすることができる準備を整えています。どんなデジタルアートが生まれるのでしょうか、続報にご期待ください。 




 

執筆者:高橋幸一(株式会社paramita) 


conomichiでは

【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。

訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。

今まで知らなかった場所へ出かけて、その地域の風土や歴史・文化にふれ、その地域の人々と共に何かを生み出すこと。そこには好奇心を満たしてくれる体験があふれています。

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