
地域✖️自分✖️資源✖️ストーリー、唯一無二の宿づくり【Vol.4イベントレポート】
- 日 程
- 7/6
- 場 所
- 長野県飯田市
長野県南部の飯田市を舞台に、ローカルでは当たり前の「マルチワーク」の実践者からこれからの生き方を学ぶプログラム「里山LIFEアカデミー」。6月7日に行われたVol.3のオンライントークセッションと連動した、Vol.4となる今回は、飯田市にUIターンをした殿倉夫妻にシードルが売りの農業体験型宿泊施設「Cider Barn &more」をご案内いただき、さらに築130年の古民家宿を経営するオーナー中島綾平さんが「燕と土と」のガイドをしてくださいました。
それぞれのガイドに共通していたのは、「農」×「宿」の掛け合わせで事業を生み出しているということ。
計9名の宿泊事業を目論む参加者が訪れ、趣向の違う2つの農園&宿での対話や収穫体験などを通じて、唯一無二の宿づくりを学んだ様子をレポートします。
▼ 「里山LIFEアカデミーVol.3」イベントレポートはこちら
https://market.jr-central.co.jp/conomichi/report/detail/24
▼「燕と土と」のオーナー・中島綾平さんのインタビューはこちら
https://market.jr-central.co.jp/conomichi/interview/detail/16

農業体験型の宿だからこそ分かる、りんごを無農薬栽培することの難しさ
燦々と太陽が照りつけ、夏真っ盛りを迎えた7月6日、「里山LIFEアカデミーVol.4」の現地プログラムが開催されました。夏の暑さに負けないくらい熱量の高い参加者たちが、関東地域や長野県内のさまざまな場所から集いました。JR飯田線天竜峡駅に集合し、分かれて車に乗り込み出発。まず、最初の目的地である「株式会社太陽農場」のりんご園へと向かいます。
「株式会社太陽農場」は、農業体験型宿泊施設「Cider Barn &more(サイダーバーンアンドモア)」を運営する由起子さんが代表として経営されており、りんごときのこ、アスパラガスなどの野菜を栽培しています。夫の健一さんが、りんごの若い青い実が膨らみ始めたりんご園を案内してくれました。

飯田市下久堅(しもひさかた)にあるりんご園は、もともと桑園だった場所を改植した場所で、約50年前に妻の由起子さんの父と曽祖父たちが始められたのだそう。現在栽培しているりんごは、サンふじ、サンつがる、長野県品種であるシナノゴールド、シナノスイート、秋映、シナノリップ。りんごの木の間隔を1メートル以内の狭い間隔にし、支柱に添えて集約して植える高密植栽培で育てています。この栽培方法は、日本でも主流になってきていますが、日当たりがよくなり、糖度が増して甘いリンゴが育つのだそう。サンふじは20トン収穫しており、他もあわせると全部で30トンほどの収量があるそうです。
りんご園では、宿泊者から希望があれば、摘花や摘果などの作業を体験してもらうことができます。「りんごは無農薬栽培が難しい作物ですが、なぜ難しいのか、そもそもりんごがどのように育っていくのか、農業体験を通して知ってほしい。そうやって買う側のお客様と信頼関係を築いていきたいですね」と健一さん。農業体験型宿だからこそ、消費者からは見えづらい生産の裏側を学ぶことができるのも特徴の一つです。
その後、車で5分ほど移動し、農業体験型宿泊施設「Cider Barn &more」へ。施設には、アスパラガスのハウスも併設されていました。
アスパラガスのハウスは、元々6棟あったそうですが、大雪で1棟崩壊する被害がでてしまったという、農業のリアルな苦労も交えて紹介してくださいました。

12年越しにかなった「生産者と消費者をつなぐ宿」ができるまで
そしていよいよ、2023年11月にオープンされた宿泊施設の中へ。真新しい木の風合いが美しいカフェスペースで、野菜ソムリエプロでもある由起子さんお手製のランチをいただきます。自家製と地元農家さんの野菜をふんだんに使ったベジタブルプレートで、色鮮やかな野菜からエネルギーをたくさんチャージできました。
その後、由起子さんから宿を立ち上げる経緯までのお話を伺いました。こちらの宿は、由起子さんと健一さんの12年越しの夢が叶ったものだそう。

イギリスの大学への留学経験を持つ由起子さんと、海外育ちでアメリカの大学に通っていた健一さんは、東京の外資系ホテルで同僚として出会いました。そんな2人が、由起子さんのイギリスで感じた飯田の食の質の高さを発信したいという想い、健一さんの農業をしたいという希望を叶えるために、2011年に飯田市へUIターンし、由起子さんの実家で就農。その頃から、「生産者と消費者をつなぐ場所がつくりたい」という思いがあり、農業体験型宿泊施設を計画していたそうですが、建設を予定した土地が、農業振興農地だったため許可がなかなか下りず構想から12年に渡る歳月を要し、苦労した末にクラファンなども実施しながら実現させました。
「ここは、伊那谷や風越山(かざこしやま)が一望できる場所です。私が幼い頃、父が仲間とログハウスを建て、みんなで農作業の休憩をしたり、飲み会や焼肉をしていた、私にとっても思い入れが深い場所です。宿を作るならこの場所がいいと思っていました」
由起子さんは、Uターンしてから、農業を広げるために、野菜ソムリエプロとして活動したり、南信州のりんごでできたシードルの普及活動を行いながら、宿を作る夢を追ってきました。そんな由起子さんが、宿を行う目的は「南信州の魅力の発信拠点として、地域のみなさんと協力し合いながら地域活性化を担うこと」。地域活性化を視野におき、一歩一歩、着実に進んできたストーリーに参加者は熱心に聞き入っていました。

「燕と土と」 の農園体験&古民家宿へ。小さくて強い合理的な事業の形とは?
「Cider Barn &more」を後にし、車を15分ほど走らせ、次なる目的地「燕と土と」へ向かいます。今回、オーナーの中島綾平さんは、
【里山LIFEアカデミーVol.3】
のオンラインイベントにも登場されていたので、DIYを行ったという古民家宿を実際に拝見できるとあって、参加者たちも楽しみにしていました。
「Cider Barn &more」を出る頃は、パラパラと小雨が舞い、空の半分くらいに雲がかかっていましたが、古民家宿「燕と土と」がある飯田市龍江に到着すると、空は青く強い陽射しが戻ってきました。そんな暑い中ではありましたが、中島さんが、笑顔で出迎えてくれました。

到着してまず、宿のまわりの農園と宿の中を案内してくれることに。中島さん夫妻は、古民家宿のほかに農園「龍の穂ーリュウノスイー」を経営されており、とうもろこし、市田柿、お米を販売されています。実際に現地を訪れると、とうもろこし畑、2種類のお米を育てている田んぼ、市田柿と加工用のハウス、さらに宿泊者が体験できる家庭菜園の畑がすべて宿を囲むように、ほぼひとつの場所にコンパクトに集約されていることに驚きました。
「家族経営で最大限稼げる仕事を考えていくと、今の範囲がベストなのかなと思っています」と中島さん。畑の規模や宿のキャパシティに加えて、宿と農園の距離的な近さも相まって、小さく合理的に行うとはこういうことかと合点がいきました。


そして農園体験では、「龍ノ穂ーリュウノスイー」の完熟とうもろこしを収穫させてくれることに。
とうもろこしの房を切り離す、バリバリという音はとても心地が良い音でした。そして、生で食べられると聞いていたとうもろこしをその場で実食! 参加者は生で食べたことがないという人がほとんどでしたが、「甘くておいしい!」という感想が口々に聞かれました。出荷しているとうもろこしは、糖度が一番高まるという早朝4時から収穫を始めているということです。
「こうやって実際に宿のお客様に食べてもらうと、おいしさを実感してもらえて、農業の方のお客様にもなってもらうことができるんです」と中島さんは、「農」×「宿泊」の相乗効果についても話してくれました。
宿主のビジョン、リノベの仕方、土地の特徴。掛け合わせで個性あふれる事業に
宿に戻り、続いてみんなで囲炉裏を囲みながらの座談会。実は、参加者9人中6人がそれぞれに古民家を所有していて、宿を開業予定であったり活用を考えていることから、中島さんの宿を開業されるまでの経緯に、みなさん興味津々。
ひとりずつ自己紹介を交えながら、参加者から中島さんに質問が投げかけられました。例えば、「DIYを進める時に設計図はありましたか?」という質問に対しては、「築130年の建物で元の設計図などは残されていなかったので、DIYに詳しい大工さんと一緒に、進めながら方針を決めていく、いわば出たとこ勝負の形で進めていった」と当時の様子を包み隠さず話してくれる中島さん。

他にも、「DIYイベントは開催したか?」という質問に対しては、悩んだけど開催しなかったという回答。理由としては、例えば壁に漆喰を塗っていく作業では最初こそムラが出るものの、やり続けていくうちに熟練していくのを感じていったといいます。そんな中で、イベントで初めての人に塗ってもらうとどうしてもクオリティに差が出てしまうため、あえてDIYイベントは開かずに自前にこだわったのだそう。そんな作業の段階から自分の個性を建物に宿らせるためのプロセスが垣間見えました。
さらに、「家主居住型の宿のメリットとデメリットは?」という質問には、メリットはお客様が困ったらすぐ駆けつけられるので、安心してもらえるのではないかということ。逆にデメリットとしては、住宅が建ち並ぶ中で宿業と自分たちの生活を切り分けずに営んでいるので、宿の騒音などが自分たちのご近所付き合いにも影響してしまうこと。
「仕事と生活が一体だからこそ、この場所で宿を続けていくためには、ご近所さんへの気配りは徹底していますね」

今回のイベントの参加者の方々は、持っている物件の条件や掛け合わせる農の形はさまざまではあるものの、「農」×「宿泊」を具体的に考えている方が多かったこともあり、殿倉さん、中島さんの話をとても熱心に聞かれている様子でした。
現地を訪れる前は、「Cider Barn &more」も「燕と土と」も「農」×「宿泊」という同じ掛け合わせだったので似通ったサービスになってしまうのでは?という疑問も浮かんでいましたが、ガイドをしてくださった2軒のオーナーのお話を聞いていると、場所や物件の条件だけでなく、宿主が持っている背景やビジョンによって、さまざまな個性が生まれていくのだと感じました。
執筆:田中聡子
写真:小原和也
編集:北埜航太
conomichiでは
【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。
訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。
今まで知らなかった場所へ出かけて、その地域の風土や歴史・文化にふれ、その地域の人々と共に何かを生み出すこと。そこには好奇心を満たしてくれる体験があふれています。
地域で頑張るプレイヤーの、一風変わったコンテンツの数々。
まずは気軽に参加してみませんか?
このページを見た方に
おすすめの取り組みレポート
-

REPORT
「プロゴルファーと回ろう!プロアマGOLFフェスタ」【開催レポート】
静岡県JR東海エージェンシー2026/05/12 更新 -

REPORT
再読と活用から生まれる現代における宿場町の価値とは?第1回「Local Research Lab」開催レポート
岐阜県中津川市2026/04/10 更新 -

REPORT
さかさマルシェ@大府駅
愛知県大府市2026/03/17 更新 -

REPORT
地域と出会い、地域に貢献する。デジタルアートをその証とするためのアーティストによるフィールドワークレポート
静岡県2026/03/05 更新 -

REPORT
オンラインでの学びを経て、伊吹山との関わりを探る旅へ――霧の中から始まるフィールドワークで私たちが得たもの【Vol2・10月25日、26日FW】
滋賀県米原市米原市シティセールス課2026/03/05 更新 -

REPORT
「当たり前」の再定義からはじめる、新市場開拓の実践論 【I-OPEN Central GIFU Session】開催レポート
岐阜県中部経済産業局 共催:岐阜県2026/02/20 更新 -

REPORT
会社の未来を“編集”するブランド戦略【I-OPEN Central TOYAMA Session】開催レポート
富山県中部経済産業局 共催:富山県2026/03/05 更新 -

REPORT
自社の“当たり前”を再定義するブランド戦略【I-OPEN Central MIE Session】開催レポート
三重県中部経済産業局 共催:三重県2026/03/05 更新 -

REPORT
工場はどこまで“メディア”になれるのか?―ブランドを表現する体験デザインの実践論― 【I-OPEN Central ISHIKAWA Session】開催レポート
石川県中部経済産業局 共催:石川県2026/01/30 更新
このページを見た方に
おすすめのイベント
-

2026/05/20
【ラボメンバー募集】Local Research Lab 中津川 -地域デザインプログラム-
岐阜県中津川市主催:中津川市 / 企画・運営:JR東海エージェンシー / 協力:KESIKI参加費 15,000円~40,000円2026/05/21 更新 -

2026/03/29
花咲く暮らしラボワークショップ
伊良湖菜の花ガーデン愛知県田原市参加費 一部有料2026/03/30 更新 -

2026/03/29
親が遊べば、子は育つ。 -渥美半島で見つける、教室では教わらない「生きる力」-
田原市文化会館 203会議室愛知県田原市参加費 無料2026/03/30 更新 -

2026/03/29
伊那谷リジェネラティブ会議|能動的な再生の火種を灯す
長野県飯田市飯田市 結いターン移住定住推進課参加費 20002026/03/30 更新 -

2026/03/29
Local Research Lab in 焼津 成果報告会
POTLUCK YAESU(東京ミッドタウン八重洲 5F)静岡県焼津市参加費 20002026/03/30 更新 -

2026/03/29
NAKATSUGAWA FUTURE DESIGN 2026
岐阜県中津川市参加費 02026/03/30 更新 -

2026/03/29
TechGALA新幹線で名古屋へ行かないと! 【東京発 名古屋行】
愛知県参加費 12,0002026/03/30 更新 -

2026/03/29
【満席となりました】Tamaki Community Lab2025 ~玉城町産の新米でおむすびを作ろう!~
三重テラス(東京都・日本橋)玉城町・玉城町観光協会(事務局:JR東海エージェンシー)参加費 0(無料)2026/03/30 更新 -

2026/03/29
【ゼミメンバー募集】DEJIMA Lab 伊那谷リジェネラティブゼミ
長野県伊那谷エリア主催:JR東海エージェンシー / 共催:伊那谷財団参加費 55,000円~2026/03/30 更新
このページを見た方に
おすすめのインタビュー
-

土の人と風の人が共に宿場町の価値を再読する |「コ・リサーチプロジェクト」が目指すもの
Local Research Lab 中津川岐阜県中津川市
-

地域のユニークを、ユーモアに。— アーティスト・おぐまこうきさんが語る「地域の魅力」と「作品への思い」
おぐまこうき静岡県浜松市水窪 三重県尾鷲市
-

自分の中に「出島」をつくる。伊那谷で再生する、あなたの好奇心
DEJIMA Lab長野県伊那谷エリア
-

地域住民とデジタル住民の協働でつくる新たな観光の姿
ねやねや天龍峡デジタル住民部長野県飯田市
-

地域に眠る資源を「価値」に。南信州で“食”を軸に地域を駆け回る折山さんが思い描く「誰もが安心できる場」とは?
折山尚美 ー合同会社nom 代表社員ー長野県飯田市
-

古民家との出会いから「農」×「宿泊」のマルチワークを生業に。無理なくつづくローカル起業論
中島綾平 一棟貸しの宿「燕と土と」オーナー長野県飯田市
-

地域住民と移住者によるプロジェクトで想いをカタチに
Cafe Lumière(カフェ・ルミエ)JR近江長岡駅
-

ヒト×モノ×地域のマッチングで飯田駅に笑顔を「よっしーのお芋屋さん。」
よっしー-「よっしーのお芋屋さん。」長野県飯田市
-

メンマ、竹炭、豚の飼料…。竹ビジネスを仕掛ける元船頭が語る「水の循環を守るために竹林整備」の深い理由
曽根原宗夫-NPO法人いなだに竹Links 代表理事、純国産メンマプロジェクト代表長野県飯田市
