REPORT
2024/08/21

地域✖️自分✖️資源✖️ストーリー、唯一無二の宿づくり【Vol.4イベントレポート】

長野県南部の飯田市を舞台に、ローカルでは当たり前の「マルチワーク」の実践者からこれからの生き方を学ぶプログラム「里山LIFEアカデミー」。6月7日に行われたVol.3のオンライントークセッションと連動した、Vol.4となる今回は、飯田市にUIターンをした殿倉夫妻にシードルが売りの農業体験型宿泊施設「Cider Barn &more」をご案内いただき、さらに築130年の古民家宿を経営するオーナー中島綾平さんが「燕と土と」のガイドをしてくださいました。

それぞれのガイドに共通していたのは、「農」×「宿」の掛け合わせで事業を生み出しているということ。


計9名の宿泊事業を目論む参加者が訪れ、趣向の違う2つの農園&宿での対話や収穫体験などを通じて、唯一無二の宿づくりを学んだ様子をレポートします。


▼ 「里山LIFEアカデミーVol.3」イベントレポートはこちら
https://market.jr-central.co.jp/conomichi/report/detail/24
▼「燕と土と」のオーナー・中島綾平さんのインタビューはこちら
https://market.jr-central.co.jp/conomichi/interview/detail/16


農業体験型の宿だからこそ分かる、りんごを無農薬栽培することの難しさ

燦々と太陽が照りつけ、夏真っ盛りを迎えた7月6日、「里山LIFEアカデミーVol.4」の現地プログラムが開催されました。夏の暑さに負けないくらい熱量の高い参加者たちが、関東地域や長野県内のさまざまな場所から集いました。JR飯田線天竜峡駅に集合し、分かれて車に乗り込み出発。まず、最初の目的地である「株式会社太陽農場」のりんご園へと向かいます。
 

「株式会社太陽農場」は、農業体験型宿泊施設「Cider Barn &more(サイダーバーンアンドモア)」を運営する由起子さんが代表として経営されており、りんごときのこ、アスパラガスなどの野菜を栽培しています。夫の健一さんが、りんごの若い青い実が膨らみ始めたりんご園を案内してくれました。
 


「果樹園は気軽に始めるものじゃない!」とりんご栽培や農業体験について熱心に話をしてくれた殿倉健一さん。

飯田市下久堅(しもひさかた)にあるりんご園は、もともと桑園だった場所を改植した場所で、約50年前に妻の由起子さんの父と曽祖父たちが始められたのだそう。現在栽培しているりんごは、サンふじ、サンつがる、長野県品種であるシナノゴールド、シナノスイート、秋映、シナノリップ。りんごの木の間隔を1メートル以内の狭い間隔にし、支柱に添えて集約して植える高密植栽培で育てています。この栽培方法は、日本でも主流になってきていますが、日当たりがよくなり、糖度が増して甘いリンゴが育つのだそう。サンふじは20トン収穫しており、他もあわせると全部で30トンほどの収量があるそうです。
 

りんご園では、宿泊者から希望があれば、摘花や摘果などの作業を体験してもらうことができます。「りんごは無農薬栽培が難しい作物ですが、なぜ難しいのか、そもそもりんごがどのように育っていくのか、農業体験を通して知ってほしい。そうやって買う側のお客様と信頼関係を築いていきたいですね」と健一さん。農業体験型宿だからこそ、消費者からは見えづらい生産の裏側を学ぶことができるのも特徴の一つです。
 

その後、車で5分ほど移動し、農業体験型宿泊施設「Cider Barn &more」へ。施設には、アスパラガスのハウスも併設されていました。
 

アスパラガスのハウスは、元々6棟あったそうですが、大雪で1棟崩壊する被害がでてしまったという、農業のリアルな苦労も交えて紹介してくださいました。
 


宿の隣にはアスパラガスのハウスがあり、こちらでも収穫体験ができる。

12年越しにかなった「生産者と消費者をつなぐ宿」ができるまで

そしていよいよ、2023年11月にオープンされた宿泊施設の中へ。真新しい木の風合いが美しいカフェスペースで、野菜ソムリエプロでもある由起子さんお手製のランチをいただきます。自家製と地元農家さんの野菜をふんだんに使ったベジタブルプレートで、色鮮やかな野菜からエネルギーをたくさんチャージできました。
 

その後、由起子さんから宿を立ち上げる経緯までのお話を伺いました。こちらの宿は、由起子さんと健一さんの12年越しの夢が叶ったものだそう。
 


南信州の3つの風(風土、風景、風味)を感じながらここでしかできない最高の体験を感じてほしいと由起子さん。

イギリスの大学への留学経験を持つ由起子さんと、海外育ちでアメリカの大学に通っていた健一さんは、東京の外資系ホテルで同僚として出会いました。そんな2人が、由起子さんのイギリスで感じた飯田の食の質の高さを発信したいという想い、健一さんの農業をしたいという希望を叶えるために、2011年に飯田市へUIターンし、由起子さんの実家で就農。その頃から、「生産者と消費者をつなぐ場所がつくりたい」という思いがあり、農業体験型宿泊施設を計画していたそうですが、建設を予定した土地が、農業振興農地だったため許可がなかなか下りず構想から12年に渡る歳月を要し、苦労した末にクラファンなども実施しながら実現させました。


「ここは、伊那谷や風越山(かざこしやま)が一望できる場所です。私が幼い頃、父が仲間とログハウスを建て、みんなで農作業の休憩をしたり、飲み会や焼肉をしていた、私にとっても思い入れが深い場所です。宿を作るならこの場所がいいと思っていました」
 

由起子さんは、Uターンしてから、農業を広げるために、野菜ソムリエプロとして活動したり、南信州のりんごでできたシードルの普及活動を行いながら、宿を作る夢を追ってきました。そんな由起子さんが、宿を行う目的は「南信州の魅力の発信拠点として、地域のみなさんと協力し合いながら地域活性化を担うこと」。地域活性化を視野におき、一歩一歩、着実に進んできたストーリーに参加者は熱心に聞き入っていました。


自家製の朝採れ旬野菜やしめじなどをふんだんに使った「ベジプレートランチ」

「燕と土と」 の農園体験&古民家宿へ。小さくて強い合理的な事業の形とは?

「Cider Barn &more」を後にし、車を15分ほど走らせ、次なる目的地「燕と土と」へ向かいます。今回、オーナーの中島綾平さんは、 【里山LIFEアカデミーVol.3】 のオンラインイベントにも登場されていたので、DIYを行ったという古民家宿を実際に拝見できるとあって、参加者たちも楽しみにしていました。
 

「Cider Barn &more」を出る頃は、パラパラと小雨が舞い、空の半分くらいに雲がかかっていましたが、古民家宿「燕と土と」がある飯田市龍江に到着すると、空は青く強い陽射しが戻ってきました。そんな暑い中ではありましたが、中島さんが、笑顔で出迎えてくれました。
 


大きな暖簾をあげて、参加者たちを宿に招き入れてくれるオーナーの中島さん。
 

到着してまず、宿のまわりの農園と宿の中を案内してくれることに。中島さん夫妻は、古民家宿のほかに農園「龍の穂ーリュウノスイー」を経営されており、とうもろこし、市田柿、お米を販売されています。実際に現地を訪れると、とうもろこし畑、2種類のお米を育てている田んぼ、市田柿と加工用のハウス、さらに宿泊者が体験できる家庭菜園の畑がすべて宿を囲むように、ほぼひとつの場所にコンパクトに集約されていることに驚きました。
 

家族経営で最大限稼げる仕事を考えていくと、今の範囲がベストなのかなと思っています」と中島さん。畑の規模や宿のキャパシティに加えて、宿と農園の距離的な近さも相まって、小さく合理的に行うとはこういうことかと合点がいきました。


宿の玄関をでてすぐのところにある田んぼでは、コシヒカリと地場品種の天竜乙女の2種類を栽培

そして農園体験では、「龍ノ穂ーリュウノスイー」の完熟とうもろこしを収穫させてくれることに。
 

とうもろこしの房を切り離す、バリバリという音はとても心地が良い音でした。そして、生で食べられると聞いていたとうもろこしをその場で実食! 参加者は生で食べたことがないという人がほとんどでしたが、「甘くておいしい!」という感想が口々に聞かれました。出荷しているとうもろこしは、糖度が一番高まるという早朝4時から収穫を始めているということです。
 

「こうやって実際に宿のお客様に食べてもらうと、おいしさを実感してもらえて、農業の方のお客様にもなってもらうことができるんです」と中島さんは、「農」×「宿泊」の相乗効果についても話してくれました。


宿主のビジョン、リノベの仕方、土地の特徴。掛け合わせで個性あふれる事業に

宿に戻り、続いてみんなで囲炉裏を囲みながらの座談会。実は、参加者9人中6人がそれぞれに古民家を所有していて、宿を開業予定であったり活用を考えていることから、中島さんの宿を開業されるまでの経緯に、みなさん興味津々。
 

ひとりずつ自己紹介を交えながら、参加者から中島さんに質問が投げかけられました。例えば、「DIYを進める時に設計図はありましたか?」という質問に対しては、「築130年の建物で元の設計図などは残されていなかったので、DIYに詳しい大工さんと一緒に、進めながら方針を決めていく、いわば出たとこ勝負の形で進めていった」と当時の様子を包み隠さず話してくれる中島さん。


他にも、「DIYイベントは開催したか?」という質問に対しては、悩んだけど開催しなかったという回答。理由としては、例えば壁に漆喰を塗っていく作業では最初こそムラが出るものの、やり続けていくうちに熟練していくのを感じていったといいます。そんな中で、イベントで初めての人に塗ってもらうとどうしてもクオリティに差が出てしまうため、あえてDIYイベントは開かずに自前にこだわったのだそう。そんな作業の段階から自分の個性を建物に宿らせるためのプロセスが垣間見えました。


さらに、「家主居住型の宿のメリットとデメリットは?」という質問には、メリットはお客様が困ったらすぐ駆けつけられるので、安心してもらえるのではないかということ。逆にデメリットとしては、住宅が建ち並ぶ中で宿業と自分たちの生活を切り分けずに営んでいるので、宿の騒音などが自分たちのご近所付き合いにも影響してしまうこと。
 

仕事と生活が一体だからこそ、この場所で宿を続けていくためには、ご近所さんへの気配りは徹底していますね


今回のイベントの参加者の方々は、持っている物件の条件や掛け合わせる農の形はさまざまではあるものの、「農」×「宿泊」を具体的に考えている方が多かったこともあり、殿倉さん、中島さんの話をとても熱心に聞かれている様子でした。
 

現地を訪れる前は、「Cider Barn &more」も「燕と土と」も「農」×「宿泊」という同じ掛け合わせだったので似通ったサービスになってしまうのでは?という疑問も浮かんでいましたが、ガイドをしてくださった2軒のオーナーのお話を聞いていると、場所や物件の条件だけでなく、宿主が持っている背景やビジョンによって、さまざまな個性が生まれていくのだと感じました。
 

17時にイベントは一旦終了。希望者は残って、「燕と土と」の畑で野菜を収穫させてもらい、テラスでBBQをしながら交流会が行われました。参加者スタッフも入り混じり、仲を深めることができたひと時でした。

執筆:田中聡子
写真:小原和也
編集:北埜航太
 

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