REPORT
2025/01/06

草を喰み、土を飲み、野生に還る。足元の植物を見つめ直して、日常の外側へ。【Vol.6イベントレポート】

長野県南部の飯田市を舞台に、ローカルでは当たり前の「マルチワーク」の実践者からこれからの生き方を学ぶプログラム「里山LIFEアカデミー」。10月16日に行われたVol.5のオンライントークセッションと連動して、Vol.6となる今回のテーマは「里山×食の実践から学ぶ“秋の味わい方”」。里山に囲まれた飯田の野底山森林公園で、食べられる植物のレクチャーを受けた後に山の食材がふんだんに使われたランチをいただく、里山をまるごと味わう現地プログラムが行なわれました。
 

ガイドは、地域プレイヤーのひとりである「合同会社nom」代表社員の折山尚美さん。「土に還る」をコンセプトに、飯田市を中心に様々な事業を展開されています。今回はそんな折山さんがとくに大切にしている「食」という観点から、身近な野山にある植物について教えていただきました。ここでは、「植物」や「自然のある暮らし」に関心を持つ計10名の方が参加した現地プログラムの模様をお届けします。

▼ 「里山LIFEアカデミーVol.5」イベントレポートはこちら
https://market.jr-central.co.jp/conomichi/report/detail/30
▼地域プレイヤー・折山尚美さんのインタビューはこちら
https://market.jr-central.co.jp/conomichi/interview/detail/18


秋の森を五感で味わう植物レクチャー

紅葉が見頃を迎えた11月17日、里山LIFEアカデミーVol.6の現地プログラムが開催されました。 朝、JR飯田線飯田駅に集合した参加者一同は、簡単に自己紹介をしてから、まずは食べられる植物のレクチャー&採取の舞台となる野底山森林公園へ向かいます。
 

今回参加したのは、神奈川や東京など都市部で暮らしている方や、飯田や近隣地域から参加された方のほか、福島からわざわざ来てくださった方も。「山を食べる」という言葉に惹かれて来た方や、中医学やアーユルヴェーダに興味がある方など、参加動機は様々でしたが「植物」や「土」というテーマに導かれた10名の方が集まりました。
 

野底山森林公園は、飯田市市街地の北方、野底川流域の標高約650m~900mに位置する植生豊かな森林公園。園内には、森の心地よい空気や景色を楽しみながら散策ができるハイキングコースが整備されています。今回は許可をいただき、森の中を歩きながら折山さんに食べられる植物を教えていただきました。当日はちょうど紅葉が見頃を迎えており、さわやかな空気の中、秋色に彩られた木々を眺めながら散策がスタートしました。
 


歩き出してすぐに、「この葉っぱは食べられますよ!」と折山さんのレクチャーがはじまります。

折山「カタバミはレモンのような酸味があるので、チーズケーキにトッピングしたり、お刺身やカルパッチョにも合うんです」
 


タンポポ、レッドクローバー、スイバ、ハルジオン、ミツバ...と、20mほど歩いただけで次から次へと植物の名前が出てきて、皆さんは味見やメモに大忙し。「この苔は湯がけば食べられますよ」という言葉には、「へー!」と驚きの声があがります。

 

同じ植物でも、季節によって味わいが変わるのだと折山さんが教えてくれました。たとえば春の植物は柔らかく、ほどよい苦味があり、夏になるにつれて固さやエグみが出てきたり。植物の持つ苦味や香りは外敵から身を守る役割などがあるそうで、ガイドしていただくことで、足元にある植物の見え方が変わっていきます。「これおいしい!」「この草の名前なんだっけ?」と、みんなで植物の話をしながら、賑やかな雰囲気で森へと入っていきました。

 

天ぷらにするとおいしいアオミズ、秋の柔らかい香りのサンショウ、防虫剤になるマツカゼソウ、花が食べられるキリンソウ、シソ科のイヌコウジュに、ヨモギのような香りがするヨモギギク...。森の中にはたくさんの植物がある一方で、中には人にとって害になってしまうものも。全ての植物を覚えるのはなかなか難しいですが、「虫や動物が食べているもの」は食べられる植物の一つの目安になるのだとか。もちろん全ての植物に当てはまるわけではないので、心配な方は経験者の方に教わるのがおすすめです。

 


最初は恐る恐るだった参加者も、後半になると好奇心のままに手にした植物を口にしてみるように

草を喰み、土を飲む。お腹の中から野生が目覚めるランチタイム

森を歩いてお腹が空いたところで、場所を移していよいよ「山を食べる」を体験していきます。会場になったのは、折山さんが手がける築150年の納屋や蔵をリノベーションした複合施設「Daikokugura(ダイコクグラ)」。
 

店内に入ると、この季節の山を切り取ってきたような、素敵なテーブルコーディネートが目に入りました。


テーブルの上にある樹皮は、近くで伐採されたモミの木から剥がしたもの。

飾り付けに使われているヤマグミやガマズミ、ホオズキも食べられます


まずは食前に、木の香りを楽しむドリンクをいただきました。針葉樹のヒバやサワラやヒノキ、落ち葉から甘い香りがするカツラなど、樹木の蒸留水が用意されています。それぞれの香りをかいで、ピンときたものを選んで炭酸水に加えました。蒸留水は少量でも香りが広がり、複数の種類を合わせることで複雑な香りが生まれます。

 
折山「いい香りだなと思ったのもが、いま皆さんの身体が求めているものです。だから明日は別の香りを選ぶかもしれないし、他の人と意見が違うなと思ってもいいんですよ」

 
そして本日のお品書きには、「土草菌虫」の文字が。それぞれの文字を表す食材に折山さんが手を加え、素材の持つ味や香りを重ね合わせて味わうコースになっていました。


この日のメニューを簡単に紹介しましょう。

 
1品目は野草のサラダです。ドクダミやミツバ、ノビルやカキドオシなど、野山で採取した10種類ほどの野草がお皿に盛り付けられていました。中には、今回森の中で見かけた植物も。
 
2品目は土のスープと、熊のスープ。土はミネラルの塊で、昔は漢方としても使われていたとか。採取した土を高温のオーブンで焼き、土のエキスをとったスープに、昆布の出汁と少しの塩を合わせてあるそうです。熊のスープは熊の骨髄を煮出したもの。どちらもはじめて体験する味わいですが、想像するような臭みなどはなく、「お腹がぽかぽかしてきました」という感想も。


3品目の「菌」は山のキノコをふんだんに使用し、ミートローフのような形状に整えられたもの。中には自然薯の脇芽であるムカゴも入っていて、「味つけは塩だけ」ということですが、キノコの旨味がぎゅっと濃縮されていました。

4品目は「虫」です。 Vol.5のオンライントークイベント でも折山さんは昆虫食について語っていましたが、この日は華やかな香りが特徴の木「クロモジ」で香りをつけた黒米入りのご飯に、蜂の子とヒビ(蚕)をごま油で揚げたものがトッピングされていました。昆虫食をはじめて体験する方が半分以上でしたが、飯田にルーツがあり、「父が好きでよく食べていました」という方も。それぞれに印象的な体験になったようです。

どのお料理も出てくるまで、食べてみるまで味の想像がつかないものばかり。参加者の方からも「こんなに一口一口を味わって考えながら食べる体験は、普段の生活ではなくなってきているかもしれない」という声が出ていました。

「食べる」を通して「当たり前」の外側に出てみる

森からはじまったツアーも、あっという間に終わりが近づいてきました。参加者の方たちは、初対面同士ですが、終始和やかな雰囲気なのが印象的でした。それは一緒に森を歩きながら植物の味を確かめたり、はじめて食べるものに挑戦したりと、お互いの驚きや感動を共有できたことが大きかったのかもしれません。

 

  
食事のあとには、全員で感想をシェアする時間が設けられました。皆さんがシェアしてくださった感想の中から、いくつか紹介します。

  
「人の元気は食べるものからはじまるなと感じました。色々な方とも出会えて、心も身体も満たされました」

   
「人生初の昆虫食で、インパクトの大きな一日になりました。はじめての体験はドキドキしましたが、みんなで話をしながら森を歩いたりして、とても心地がよかったです」

  
「普段は都会で保育士をしていますが、子どもたちがどんどん土から離れていると感じています。今回参加して、土や自然に触れることはやっぱり大事だなと思ったので、『都会の子どもたちに体験してもらうにはどうしたらいいんだろう?』と考えるきっかけになりました」

  
「日常生活で食べているものは味の予想がつくけど、今日食べたものは全く予想がつきませんでした。はじめて体験することが徐々になくなっていく中で、『これはどんな味だろう?』と皆さんとチャレンジできたのが楽しかったです」


第5回トークイベントに登壇された齋藤由佳子さんが立ち上げられたJIEN LLPメンバーもサポーターとして東京から駆けつけてくれた

 

今回の現地プログラムでは、五感で森を味わうことからはじまり、一日を通して感性や好奇心を刺激する時間となりました。「雑草」と呼ばれる草を食べ、足もとにある「土」を飲む。自分自身の「当たり前」の外側に出て、未知のことにチャレンジしたことで、普段は無意識のまま見過ごしてしまうようなことを見つめ直すきっかけにもなったのではないでしょうか。最後に、参加者の方から「どうして“土”にまつわることに取り組んでいるんですか?」という質問に対する、折山さんの言葉を紹介したいと思います。

 

折山:自分がいつ死ぬかわからない中で、土に還らないものを残してしまったら、後世の人たちに申し訳ないなと思っています。だから私が残すものは、土に還るものだけ。それが私ができる最後のプレゼントかなって。山や森は時間をかけて土をつくり、虫も花粉や種を運んだりしています。でも私たちは、普段の暮らしの中で、地球に何かをお返しすることが難しくなっています。私はそれが悲しくもあり、何かができるチャンスでもあるかなと思っているんです。今日一日を通して、そんなことが伝わっていると嬉しいなと思います。
   

野山やそこにある植物は日々その姿を変えていき、その変化が私たちに気づきや発見をもたらしてくれます。参加者の皆さんも、それぞれの中に何かを発見したり、これからの暮らし方や生き方を見つめ直すような時間になったようです。

   

執筆:黒岩麻衣
写真・編集:北埜航太
 


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