
【里山ライフアカデミーin伊吹山Vol.1】山の多様性から学ぶ”自然な生き方のヒント”
- 日 程
- 10/17
- 場 所
- 滋賀県米原市
滋賀県米原市を舞台に「自然との関わり」から自分のこれからの生き方を学ぶプログラム「里山LIFEアカデミー in伊吹山」。第1回となる今回は「山の多様性から学ぶ自然な生き方のヒント」というテーマで、専門家2名によるトークセッションを配信しました。
ゲストスピーカーは、米原市在住の動物生態写真家で、株式会社イーグレットオフィス代表取締役の須藤一成さんと、memu earth lab東京大学生産技術研究所特任准教授で、一般社団法人資源再読機構代表理事の森下有さん。
分野が異なるお二人の豊かな経験に基づいた他では聞けないお話と、ローカルの新たな可能性や人の生き方につながるトークセッションで大いに盛り上がりました。現代に生きる自分たちの感覚を少し地球時間に調整してもらったような、そんな素敵な会になりました。
INDEX
- イヌワシから 伊吹山の自然を知る
- 多様な視点の重なりを通じて 豊かに森を味わう
- 年間300日 霧につつまれる 伊吹山の魅力
- 目では見えない大きな変化 でも肌で感じる変化 生態系の変化を考える
- 視点を変えて再読する 人間と自然の豊かな距離感
- 「時間をかけること」 それがこれからの生き方の キーワード

イントロダクション
吉澤:みなさま、こんばんは。本日モデレーターを務めさせていただきます、JR東海conomichiプロデューサーの吉澤克哉です。今回は、専門家2名によるクロストークを軸に、ここ米原市の伊吹山が持つ秘められた魅力を学んでいくとともに、自然との共生や環境変化への対応など、ローカルでの生き方のヒントを学んでいきます。
今回のゲストを紹介させていただきます。お1人目は、動物生態写真家/株式会社イーグレットオフィス代表取締役の須藤一成さんです。須藤さんよろしくお願いします。

須藤:こんばんは。私は、主にイヌワシの撮影・調査をしています。仕事を始めた40数年前は野生動物や自然って日本ではあんまり意識されていませんでしたが、今ではとても注目されています。少し寂しいのは、注目された背景には自然環境の悪化や野生動物の減少があることです。
でも今、我々が野生動物たちと共存しなければならないと気づけたことが、今後への期待につながっています。
吉澤:ありがとうございます。続きまして、memu earth lab、東京大学生産技術研究所特任准教授、Rereading Company一般社団法人資源再読機構・代表理事 森下有さんです。森下さんよろしくお願いします。

森下:今回、伊吹山にお呼びいただきありがとうございます。私は、名古屋出身なので「伊吹山」も、「米原」も、名前は知っていましたが、実際に来るのは初めてで、初めてながらに何か共有させてもらえることがあると嬉しいなと思っています。
吉澤:ありがとうございます。今日は、この会の前に須藤さんの案内で伊吹山を色々散策させていただきました。森下さんには、実際に見た感覚や他のフィールドとの比較などを交えながら、お話していただければと思います。今日はよろしくお願いします。
イヌワシから 伊吹山の自然を知る

須藤:伊吹山は、滋賀県の最高峰標高1,377mのカルスト地形の山で、草原やお花畑広がり、多くの野生動物たちが今なお生息しています。伊吹山にはイヌワシが生息し、ノウサギ、ヤマドリなど、色んな野生動物を捕獲して食べていますが、獲物が減った時に一番最初に影響を受けていなくなるのがイヌワシなんです。イヌワシが生き続けてくれることこそが、伊吹山が良い自然環境にあることの証です。なので、私はイヌワシこそ伊吹山の守護神なのだと思っています。
今、全国的にイヌワシの数が減ってきていて、330ペアいたうち120ペアがいなくなってしまいました。理由としては、狩場の減少、獲物の減少があげられます。その原因の一つとして、人工林の植林というものがあります。自然林は冬になって葉を落とすと山の斜面までよく見えるようになってイヌワシが獲物を取りやすくなりますが、間伐されていない人工林では林床に光が全く当たらず、植物がほとんど育ちません。こういう場所では動物も暮らしにくく、林床が見えないためにイヌワシも狩りに入れない。植林率がだいたい30%を超えてくるとイヌワシの繁殖成功率が低くなり、40%を超えると消滅するペアが出てくると言われています。全国の植林率は40%を越えています。滋賀県も同じです。
また、近年ウィンドファームが非常にたくさん計画されていますが、そこは野生動物がたくさん生息する場所なんです。イヌワシやクマタカはこういうところで上昇気流を利用して飛び回ります。イヌワシのバードストライクは日本でも起こっていますし、山の環境を変えることで野生動物にも大きな影響が出てしまいます。豊かな自然環境エリアにウィンドファームを設置することは野生動物や自然にとって脅威となります。

さらに、イヌワシは希少種で姿を見るのが難しい種です。容易に観察できる場所には多くの人が集まってしまいます。情報を頼りに、伊吹山ドライブウェイにもイヌワシを見たい人、撮影したい人がたくさん集まります。すると、立ち入り禁止区域にまで人が入って撮影するという問題が生じてしまいます。そういうことに対策して行くために昨年、イヌワシの映像を家にいながら見てもらえるようにライブ配信をしました。多くの人が伊吹山のイヌワシを見守ることで、ルールやマナーを守った撮影をしてもらうためです。
吉澤:ありがとうございました。イヌワシがとても少なくなってきたことを実感しますね。
須藤:イヌワシはもともと行動範囲が広いので、そもそもたくさんいるわけではないんですが、1990年以降、生息数の1/3がいなくなってしました。また繁殖成功率が20%と非常に低下しています。1ペアあたり5年に1回しか繁殖成功しないのです。だからこの先若いワシがなかなか育たない状況が続いていくのかなと心配しています。
吉澤:伊吹山でもイヌワシや植生を守っていこうとする活動も進んでいるようです。その辺りも伊吹山の魅力にもつながる要素だと思いますので、この後お話を深めていければと思います。では続いて、森下さんよろしくお願いします。
多様な視点の重なりを通じて 豊かに森を味わう
森下:普段、私は北海道と東京の2拠点で活動をしており、北海道の方の拠点は日高山脈の東側の十勝大樹町という十勝でも海に近い場所です。広大な自然の中で一生懸命忙しく過ごす研究生活を送っています。なぜ東京じゃなくてこういう広い場所で研究しているのかというと、東京だと見るもの全てが人の設計したものでできているんですけども、大樹町は色々なものが自然の影響を受けて、人が設計し切れてないものが明るみに出てくるというところに面白みを感じているからなんです。

現在、自分で一般社団法人を立ち上げ、メムオープンリサーチキャンパスとして、色々な学者であったり、地域の高校生であったり、海外の学生たちが集まれる場を運営しています。元はホーストレーニングセンターだった場所で、だいたい20haほどあります。ここで大切にしているのは、リサーチリトリートという言葉。何か目的を持って集まるのではなくて、一歩下がって目の前の現実と対峙し、そもそも何を研究すべきか、改めて考える時間を共有することができる場所を目指しています。目の前の当たり前を当たり前と思わず、もう一度考え直そうよ。というようなフィールドワークをみんなとやっています。
具体的には、僕は建築が専門ですが、オーストリアから来たシェフと一緒に目の前のカラマツが実際に体の一部になる過程を考察したり、宮大工さんとシェフと一緒に森に入ると宮大工さんはこの木を使えないかな?と考え、その横で、シェフはこれ食べられないかな?と考えている。違う観点をどんどん重ねてくことで複雑な関係性といいますか、目の前に実は自分が考えている専門領域以外の重なりがあってそれがもっともっと色んな人が重なっていくことによって目の前の物の複雑性というのが改めて考え直されるっていうようなフィールドワークを繰り返しています。

また、触りながら考えるっていうことがものすごく大切かなと思っています。触ることは子どもにとってもすごく重要です。そのリアルな感覚っていうのは、頭でイメージして馬はこんな形で、こんな大きさでというのではなくて、それが暖かいこと、毛並みがケバケバしていること、どんなふうに舌でなめられるかということを子どもの時から感じることは、教育的にもとても重要だと考えています。
吉澤:対話がキーワードですね。さっきの人工林の話もそうですが、均一なもの、自分たちの欲望を実現するために対話せずにやってきたのが今までなのかなと思うんですね。やっぱり対話する姿勢みたいものはだんだん薄れてきてしまっていたんでしょうか。
森下:対話の相手が1つだけだと答えが短絡的なものになってしまうのかなと思います。イヌワシと対話してなかったり、野ウサギと対話してなかったり、その下に出てくる水と対話してなかったり、昔からある信仰と対話してなかったり。1つのものと向き合うだけの時代が60年とか続いてしまうと、その間に「対話の仕方」さえも忘れてしまって、信仰とかもなかったことにしてしまっている。もう一度対話する方法から含めてつくっていかなければいけない実は結構大変な時代とも言えるかなと思います。
吉澤:複雑なものをできるだけ単純化してみようとしちゃっているんだと思いますね。実は複雑で分からないことが当たり前で、色んな視点があるんだということを理解しないといけないですね。
年間300日 霧につつまれる 伊吹山の魅力
吉澤:今日は改めて次のようなトークテーマで進めたいと思います。1つめは「伊吹山の魅力」、2つめは「生態系の変化」、3つめは「人間と山の距離」、最後は「これからの生き方」をお聞きしたいと思います。
まずは1つめの「伊吹山の魅力」をお聞きしたいと思います。須藤さんに是非お聞きしたいのですが、伊吹山の魅力に惹かれて移り住まれたと思いますが、改めて伊吹山の魅力はなんでしょうか。

須藤:イヌワシのいるところに住みたいと思って自然豊かでイヌワシが住んでいるところを日本全国探し回ったんです。その中で、伊吹山は1,377mでそんなに高い山じゃないのに、自然がまだまだ残ってる。人が麓から山頂まで生活に利用し使い続けてきたのに、まだまだ動物たちが元気に生活している。そういうところに強く伊吹山の底力というかポテンシャルを感じましたね。そういうのがあって伊吹山の麓に住もうと決めました。
吉澤:今日は伊吹山に一緒に入って霧がすごく濃かったので、なかなか景色が見られなかったですが、実はこの濃い霧が植物にはとっても良いと聞きました。実際に今日、森下さんに見ていただいて、どのように感じられましたか?

森下:あまり見えなかったですね(笑)。でも、逆に霧が美しいと感じることができました。あんなに力強いミストの力を感じるっていうのもなかなかないことなので、見えないのも良いんじゃないかと思いましたね。見えないことで逆に足元を結構じっくり見ることができましました。鹿の食害の話を聞いていたんですけど、少しずつみんなの努力で戻ってきているところがよく見えたりしました。普段は遠くばかり見がちなんですけど、霧のおかげで逆に接近して石に生えてる苔や石の形状などを観察できました。あと、普段、北海道の標高20mとか30mのところをウロウロしていますが、伊吹山の1,300mと同じような植生なので親近感を感じましたね。
須藤:確かに、今日は霧で見てもらえなかったのが非常に残念です。伊吹山の特徴っていうのが、他の日本の山と比べて動物をすごく観察しやすいことなんです。動物に出会う機会もすごく多くて、最近とても増えているニホンジカをはじめ、クマも結構な確率で見られますし、アナグマなども割と人間を安全だと思っているのかすぐ近くに出てきたりしますね。そういうのを今日見てもらえるかなと期待していたんですけど、霧があまりにも濃くて残念でした。
森下:最初のドライブウェイのところでカモシカに出会えましたね。あの辺りは大体広葉樹ですよね。とても立派な素晴らしい山だなと感じましたね。
目では見えない大きな変化 でも肌で感じる変化 生態系の変化を考える
吉澤:さて、現在伊吹山に鹿が増え、鹿の食害による影響を受けているようですが、伊吹山の生態系はどのように変化してきているのでしょうか?

須藤: 大きな変化ってなかなか見えてこないんですけど、イヌワシの繁殖成功率を見ていくことである程度変化を予測することができると思うんです。40年間イヌワシの繁殖状況とかいろんなことを調べてみてきたんですけども、繁殖成功率で言うと全国平均とほとんど変わらない20%ぐらい。あまり安心してはいられないですね。まだまだ自然が残されてはいますけども危うい状況で、ほんの少し歯車が狂うとガタガタと崩れていってしまうんじゃないかという危うさが今はあります。
吉澤: 変わってしまうことへの怖さがあると思いますが、シカが増えてしまった現状を踏まえて、地元の方は変わっていくことに対してどのように受け止めておられますか?
須藤: 地元の方が野生動物に対して重要視するのは、農作物が荒らされるかどうかっていうことですね。シカとかイノシシとか畑の作物を食べてしまうのであんまり増えることは歓迎されない。野生動物がいてもいいんだけど被害を出してほしくないなあというところですかね。昔から農作物被害が出ないように追い払いながら、一部は捕獲して、戦いながらもうまく野生動物たちと生きてきた。そういう暮らしだったと思うんです。人間もある程度我慢していかなきゃならない部分もありますし、野生動物にも我慢してもらわないといけない部分がある。その折り合いをつけながら暮らしていく必要があるんじゃないかなと思います。
吉澤: ありがとうございます。森下さんが普段活動しておられる北海道の芽武の方々は、生態系の変化についてどのように捉えられているのでしょうか?

森下:やっぱり農業、酪農をされている方が多いので、肌で感じていると思います。実際に酪農とかだと牛が暑がっていて、それだけで分かりやすいですよね。今年はとても夏が暑くて森の木の実がたくさん生っているんです。そうすると来年ちょっと心配だよね、と。生態系がどのスパンで変わるかっていうのはそれぞれ相手しているものによって違うのですが、みなさんすごく敏感に感じておられますね。
視点を変えて再読する 人間と自然の豊かな距離感
吉澤:人間と自然との距離について話を伺いたいと思います。須藤さんの地元の方々はどのような感覚で自然と付き合っておられるのでしょうか?

須藤:自然との付き合い方で面白いと思ったことがありました。地元のおばあさんが畑で色んな作物をつくっているんですけど、大根をサルが食べていくんです。地表に出ている部分をかじって、土に埋まった部分はそのまま残して。それを見たおばあさんは、サルもちゃんと私らの食べる分を残してくれた。って笑ってたんです。すごく余裕があるというか、それくらいの大らかさがないと野外で農作物を作ることも出来ないんじゃないかなっていう風に思いましたね。
吉澤:なるほど。確かに大らかな気持ちで向き合うことは大切ですね。森下さん、北海道ではそのようなお話はありますか?
森下:エゾジカは、みんなが言うように牧草を食べてしまう害獣なんですよ。でも視点を変えて、その鹿たちを放し飼いにしていると錯覚すれば、その牧草はシカに食べさせている餌だということになり、その鹿の肉を回収すれば正にグラスフェッド(牧草飼育)の鹿なんです。その辺で鹿がウロウロしているように見えて、実はグラスフェッドしているっていう。そうやって考えてみると良いんじゃないかって。
吉澤:確かに面白いですね。須藤さんは正に山に入って撮影をしておられますが、動物から見た人間という視点で何か感じるようなことはありますか?

須藤:動物たちも人間をものすごく意識してるんですよ。例えば、野生動物って本当はたくさんいるんですけど山で動物に会えることって本当に少ないです。時間的にも短い。なぜかなと考えてみると、動物の方でも人間を避けているんです。我々人間の感覚より聴覚や嗅覚が非常にするどいんですね。クマなんかは匂いで人間がきたのがわかるので先に隠れてしまうんですよね。だからなかなか出会えない。我々が観察していると思っているけど、それ以上に向こうに見られているのかなっていうのがありますね。
森下:ハンターさんが洗剤で服を洗わないという話があって、人間の匂いがすると鹿が逃げていくので、人の匂いを纏わないように気をつけているそうです。逆に言えば、匂いは人間っていうのを強調できる事の1つ。人の匂いをつけるためにもっと森に入ったり、もっと森で活動することで、その場所には動物が来なくなったり、香りで縄張りのようなものをつくるっていう話も色々ありますね。
吉澤:山に入らなくなったから、山に人間の匂いがしなくなった。人間と山の距離が開いてしまっているような実感はありますか?
須藤:それはあると思います。伊吹山周辺には、昔から人が歩いていた杣道や小路が登山道以外にもあるんですけど、そういう道がもうほとんど通れなくなっています。人が通らなくなったので草が茂ってそれから木が覆いかぶさって、昔の道の多くは通れなくなっています。人が山に行かなくなったからですね。
吉澤:森下さん、どういうふうにするともっと人間が山に入っていけますか?

森下: いろんな人と山に入るっていうのが僕は重要だと思っていて。やっぱりきのこを採りに行くと、きのこ目的の森しか見えてこないので、なんかもうずっときのこ目になっちゃうじゃないですか、きのこ、きのこ、きのこになって。また、それが山菜目になると山菜しか見ないし、シカ目になるとシカしか見えない。単一な目線になるのではなくて、色んな目をもった人と入ることで色んなものに囲まれていることを実感できるようになると思いますね。
吉澤: 都会の会議室で話しているより、森に入ったほうが対話は増えるって話もありますよね。
森下: 確かにそうだと思いますね。感覚をいっぱい使いますしね。例えば、川の音が聞こえてきたり、きのこがあったりするので、使う感覚が多いですよ。自分のことを話すより、お互いの見えているものを共有するモードに入ると思うんですよね。
須藤: そうですね。同じ場所でも、テレビで見るのと、実際に行った時は全然違う。気温もありますし、風もあります。やっぱり肌で感じる。それから目で見る。いろんな感覚を使う。やっぱり現地に行ったときはそういうことがすごい刺激になるのではないかと思いますね。
森下: 今日の霧も、多分映像だけで見ていても何か行きたくないなってなりますよね。でも、あれすごいですよね。あれだけ髪の毛がびしゃびしゃになって。あの気持ち良さは、あの場にいないと感じられないですよね。

吉澤:雨なんか降ってないのにないのになぜが全身びしょ濡れでしたね。
須藤:霧のほうがなんか、全身に浴びる感じがしますね。
森下:あの霧の濃さで苔のことがよく分かりましたし、あの風の強さで日本海側と太平洋側の境にあるんだってことが体感できましたね。なかなか等高図を学校で見ていても分からないですよね。普通なら、あぁ確かにそうかもね、で終わりますよね。
吉澤:教科書でそれを読んでも頭には入らないんですけど、なんか体感すると違いますね。
森下:あの風の強さでそれを覚えていくっていう。
須藤:尾根の表と裏で、風の強さが全然変わりましたからね。尾根に出たとたん、すごい風でしたね。
吉澤:飛ばされそうになりましたよね。
森下:で、戻るとシーンとして(笑)
「時間をかけること」 それがこれからの生き方の キーワード
吉澤:森下さんのリサーチリトリートの話の中で、実際に現地に行った時に一歩引いてみるとおしゃっていましたが、これこそ正に「これからの生き方」の参考になるような気がします。どのようにすれば現地に行った時により体感できるようになりますか?

森下:やっぱり時間って大切だと思うんです。最初はあたふたして荷ほどきしなきゃ、メール返信しなきゃって色々追われている。1週間経つとようやく目の前のもの落ち着いて見られるようになり、次の1週間でようやく地域の方々やそこにある自然と対話し出して。そして3週間目にちょっと何かつくってみたり、何か書いてみたり。けど、その時間を今つくれないですよね?僕もそうですけど、今日見ただけで伊吹山のことを語れるなんてとんでもないというか何も分からないですよね。だから、やっぱりそれだけの時間を心身に入れていかないと見えてこない。自分の持ってきたものをもう1回考え直す時間っていうのが大切ですよね。
吉澤:なるほど。キーワードは「時間」ですね。須藤さんは、それこそ永い時間をかけて伊吹山を舞台に活動されていますが、時間という観点で自然に対して感じることはありますか?
須藤:徐々に変化が早くなっているというふうに感じますね。野生動物が減る、自然破壊とか言いますが、その進行がゆっくりならそれほど動物たちにとって大きなインパクトにならないかもしれない。けれども今、人間がやっているのはものすごく早い変化。全て早いです。だから野生動物たちが生活パターンを変えようとしても対応できる時間もない。そんなものすごく早い動きが動物や自然に対してインパクトが大きいんじゃないかな。
我々はパソコン使ったりして情報伝達が早くできるんですけど、そうなったから時間ができたか?といったら時間できてないですよね。どっかでもう少し余裕を持つことを考えていかないといけないんじゃないかなと。あまりにも急がされ過ぎる世の中になっているような気がします。

森下: 今はデジタルがあるので、やろうと思えば結構時間を生み出せると思うんですね。ずっと座ってなくても上手く情報共有できたり、ネットワークで繋がった世界でいろんな情報を得られたり。座ってなくてもいい時間で増えているはずです。自分の足で森に入ってみて、図鑑にこうやって書いてあるけど実際と違うよね?じゃあ調べなきゃとか。疑う気持ちをもって、見る力を養って、その地域の人がその地域の情報つくっていくっていう循環を教育することが大切だと思いますね。情報がたくさんあるからやっぱり知ったつもりになるんです。けど、それは他人が見たものであって、自分は目の前にあるものを見る。それが大事ですね。
須藤: 確かに、現場で自分の目で見て感じることは大切ですね。その上で、大勢の人が集う場所は自然環境へのインパクトも大きいのでルールが必要になってきます。そのルールを守ることが自然を守っていくことにもつながっていることに気づいて欲しいですね。
森下: それもルールというよりは、みんなの共通認識というものだと思いますので、それこそ変化して書き換えられるような形で共有されていると良いなと思いますね。アップデートが大切なのかなって思います。
吉澤: 今日配信を聴いてくださっているのは首都圏の方が多くて、現地に行く機会をなかなか持てないかなと思います。自然との共生の中で余裕を持った生き方をしていくために、どういったアクションをおこしていったらいいと思いますか?

須藤: イヌワシを守りたい、自然を守りたいって人は今ものすごく多いと思うんです。そして何をしたらいいのかって。僕は色んなことができると思うんです。でも小さなことで一つ。「少し我慢する」ということが野生動物たちや自然との共生の道じゃないかと思いますね。 動物たちに20%はとられても仕方がない。それが人間たちの我慢。動物たちは20%以上食べさせてもらえないという我慢。その我慢をお互いにすることで共生の道が開けるんじゃないかな。そこで私は我慢しませんっていうことになるともうお互い共生することができなくなってしまう。だから小さな我慢を少しだけしようっていうことも大きな自然への貢献じゃないでしょうかね。

森下: 色々な場所を研究していこうとする人が次世代に対して重要な役割を担っていくんじゃないかと思います。みんなの憶測かもしれないところを実際に調べていくような。その場所をちゃんと調べて研究するというような人がとても重要なんじゃないかな。そういう人をサポートしてどんどん育成していくっていうのがすごく重要だなと思いますね。
吉澤: 現在、伊吹山では植生復元プロジェクトが始まっていますが、今後どのような山になっていけば良いと思われますか?
須藤: 僕の夢としては、アフリカでやっているサファリみたいなものが伊吹山でできないかなと本気で思っています。来場者から入場料をもらい、そのお金を自然環境保全に使用していく。そういうことが実現できたら良いなと思いますね。
森下: サファリ化ですか、長い目で見た伊吹山の未来をみんなで共有したいですね。100年200年後をイメージした絵を描いてみたりとか。そんなのが見てみたいですね。
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