INTERVIEW
2025/05/13

地域のユニークを、ユーモアに。— アーティスト・おぐまこうきさんが語る「地域の魅力」と「作品への思い」

PROFILE

おぐまこうき

静岡県浜松市水窪 三重県尾鷲市

地域のユニークを、ユーモアに。— アーティスト・おぐまこうきさんが語る「地域の魅力」と「作品への思い」

INDEX

  • アーティストプロフィール
  • 絵を描き始めたきっかけ
  • 応募にいたった経緯
  • 制作された作品についてご紹介
  • 実際に水窪と尾鷲市を訪れてみて
  • 最後に、一言メッセージ

 

JR東海の「ずらし旅」の新たな取り組みとして、新幹線の利用を通じ、これまで知らなかった地域との交流を実現し、その魅力に触れることで過疎化が進む地域に貢献するプロジェクトが、株式会社paramitaの『SINRA(シンラ)』との提携により始動しました。地域の魅力を再発見し、その魅力を“デジタルアート”という形で可視化するこのプロジェクトで、アート制作を担当することになったのがアーティスト・おぐまこうきさんです。第一弾では、静岡県浜松市水窪と三重県尾鷲市を共創地域とし、実際にフィールドワークで地域に足を運び、アートを制作していただきました。 


制作されたアートは、「ずらし旅」の「選べる体験クーポン」の一つである「エシカル特典」選択時の、地域貢献の証としてお客様に配布されるデジタルアートとなるほか、実際に現地でポストカードとして販売される予定です。 


*ずらし旅: https://shinkansen.travel/zurashi-tabi/index_b.html


今回は、アーティストであるおぐまさんに、実際のフィールドワークを経ての制作背景や想いを伺いました。 

 


アーティストプロフィール

おぐまこうき 

東京都出身。イラストレーター・絵本作家として活動を行う傍ら、教育や保育の現場で子どもと関わる仕事も行っている。ユーモアあふれる作風で、作品を見た人が思わずクスッと笑ってしまうようなゆるやかな世界観が特徴的。 
 
オフィシャルサイト 
https://kokioguma.net/ 


絵を描き始めたきっかけ

インドのチェンナイの出版社「Tara books(タラブックス)」により出版された、おぐまさんの絵本「The BARBER'S DILEMMA(とこやさんとすごいひげ) 


おぐまさん:「小学生ぐらいから自由帳に漫画を描くことが好きで、幼少期は漫画を描いては友達に見せていましたね。本格的に描くようになったのは、高校を出て絵の専門学校に入ったときです。その頃はすごい大きな抽象画とか今とは違った作風で描いていましたね。個展をしてみたり、コンペに出展してみたりなどいろいろ模索を続けていました。」 


ーーーーなるほど。今の作風からは柔らかく、自由で楽しげな印象を感じます。いつ頃からこのような作風になったのでしょうか? 


おぐまさん:「そうですね。だいたい10年ぐらい前から絵本に関心を向けるようになったんです。その頃から徐々に変わっていったと思います。2017年にインドの出版社さんから絵本を出させてもらって、そのころから画風が柔らかくなっていきましたね。」 

「でも、クスっと笑っちゃうとか、ユニークでナンセンスな感じとかは、昔からずっと変わっていなくて、見てる人が穏やかな気持ちになれるような、ユーモアある世界観を作るために試行錯誤してたのかもしれないですね。」 


ーーーーそうなんですね。保育にも携わっていたとお聞きしましたが、作品に影響や関連性はあるのでしょうか? 


おぐまさん:「そうですね。絵本に対して興味を持ったのは、やっぱりその仕事をやっていたからというのが大きいですね。20代半ばから保育には関わり始めたんですけど、それまではただアートが好きで制作を行っていました。保育に関わり始めてから絵本にも興味を持ち始めて、作風も変わっていったんだと思います。」 
 

今回のプロジェクトでは、アート制作を担当するアーティストを事前に公募により募集し、選考しました。 

 


応募にいたった経緯

おぐまさん:「たまたまFacebookを見ていて、地域で活動をしている知人がプロジェクトの募集に関する投稿をポストしていたんですよね。誰か応募しないかなみたいなつぶやきをされていて、気になって記事を見てみたら、すごい関心あるなって思って。その日が締め切りで、半日しか時間がなかったんですが、急いで作品をまとめて応募しちゃいました(笑)」 


ーーーーその日に(笑)。どういった点に関心があったんですか? 


おぐまさん:「僕が東京生まれ神奈川育ちで、地方の田舎に関わる機会がなかったんですよね。それもあって東京以外の暮らしや、自分にとっての田舎みたいなものに憧れや関心があって、何度か長野県の地方とかに訪ねてみたり、イベント参加してみたり、人の話を聞いてみたりとかしていたんですよ。」 


「3、4年前から『空想スケッチ』っていう、相手の思いとか考えていることを聞いて、それを絵にする活動をしていたんですけど、それが地域でもできないかなって前から漠然と思っていて。地域の思いみたいなものを絵にできないかなと考えていたときに、その記事を拝見して、自分のやりたかったこととすごいあってるなと思ったんですよね。」 


ーーーーもともと地方での生活に関心があったんですね。 


おぐまさん:「はい。今回のプロジェクトを主導している株式会社paramitaさんも地域活性化の取り組みをされていることを前々から知っていて、注目していました。それもあって締切ギリギリでしたが、チャレンジしてみました。」 
 

公募で選ばれたおぐまさんを含む2名のアーティストは、2024年12月に今回のプロジェクトの舞台となる静岡県浜松市水窪と三重県尾鷲市にて、それぞれ1泊2日でフィールドワークを行いました。 


実際に水窪と尾鷲市を訪れてみて

フィールドワーク中の写真。浜松市水窪にある「水窪の星の駅 碧 - AOI -」の代表であり、県外から水窪へ移住してきた宇佐美さんにお話を伺っている様子。 


おぐまさん:「水窪でフィールドワークをして、その後すぐに尾鷲でもフィールドワークだったので、地域の違いがわかってとてもおもしろかったですね。」 

「水窪はとくに盛りだくさんでした。短い行程の中で、山住神社だったり、カモシカの資料館だったり、民俗資料館だったり、ダムだったり、、、インプットが多くてちょっと消化しきれないぐらいでしたね(笑)」 


ーーーーそうですね。その中でも、水窪で特に印象に残っていることはなんですか? 


おぐまさん:「民俗資料館で『年取り膳』っていう大晦日に1年間の無病息災に感謝してたべる料理のレプリカを拝見しまして、その中のサンマが円満を願って丸い形になって焼かれているのは印象的でしたね。かわいらしい印象があって、作品のインスピレーションになりました。」 


「あと、このあたりの地域の伝統的な正月飾りである『男木(おとこぎ)』も印象的でした。実際に建てるところを見せていただいて、大きくて迫力がありました。その隅っこのところにちょこんと鏡餅がおいてあって、それがすごくかわいくて、今回作品にも描かせてもらいました。」 

 


 

男木づくりの様子。地域文化の伝承として、民俗資料館に隣接する伝統的な建物の前で、毎年男木が設置されている。 
 

おぐまさん:「それと、スーパー。商店街に行ったときに、町に2つしかないスーパーを見にいったんですが、それが都会にある大きなスーパーとは違って、こじんまりしていて素朴な感じがあって好きでした。たぶん、ここに住んでいる人にとっては当たり前のことなのかもしれないんですが、東京との違いとかをたくさん発見できて面白かったです。」 
 

「さっきの鏡餅もそうですが、『こんなところにこんなのがあるんだ!』みたいな小さな発見とか、都会との違いとか、そういうちょっとした嬉しい気づきが地域にはたくさん散りばめられていて、そういうところが地域の魅力なのかなと思います。」 
 

ーーーーたしかに。都会に長く住んでいたバックグラウンドがあるからこそ、地域のささいなものがもつ豊かな魅力に気づけるのかもしれませんね。尾鷲市の方はどうでしたか? 
 

おぐまさん:「尾鷲は、地域住民や企業、行政が連携して育てている参加型の森林である『みんなの森』にまず伺いました。農林水産課の芝山さんに森を案内いただき、この森で開催された『生物多様性の森づくりワークショップ』について解説してもらいました。芝山さんがすごく丁寧に、熱意を込めて解説されていた姿が印象的でしたね。」 
 

 


 

みんなの森の様子。奥で解説する芝山さんの話に耳を傾ける一行。 
 

おぐまさん:「他には、九鬼(くき)という港町だったり、世界遺産の熊野古道にまつわる資料館の『熊野古道センター』にも行きましたね。」 
 

ーーーーそうだったんですね。尾鷲で印象的だった場所や出来事はありますか? 
 

おぐまさん:「『みんなの森』ですね。芝山さんの思いがひしひしと伝わってましたね。水の循環や流れが森の生物多様性には重要だそうで、特に『しがら』と呼ばれる昔ながらの技術を使って水の流れや速度を調整しているというお話は興味深かったです。」 
 

「あと、森に苔が生えていたんですが、『苔は森の保水のようなもの』という言葉が印象的でした。森の生物多様性において保湿が重要であるそうで、なんか人間と似ているなと思いました。人間も保湿が重要でパックとかで保湿をするじゃないですか。そういった連想から苔パックをした動物たちを作品として描いたりとかもしました。」 
 

「あと、九鬼もおもしろかったです。海のすぐそばを走る道路沿いに停泊したボートがずらっと並んでいて、道路に柵もなかったので、実際に毎年1、2台ほど海に落っこちてしまうそうです。並んでいるボートが、車が落ちないように気づかって、見守っているように感じました。この風景も思わず作品にしてしまいましたね。」 
 

 


 

九鬼に続く道路の様子。右は海で、左は山。自然と街の距離が近いのが特徴。 
 

「尾鷲も、東京では普段見れないようなちょっとした風景の中の気づきや発見がたくさんあっておもしろかったです。」 
 

おぐまさんは、2つの地域のフィールドワークを経て、現地で得られたインスピレーションをもとに作品制作にとりかかりました。 


制作された作品についてご紹介


ーーーー制作された作品についてご紹介いただけますか?作品へのこだわりや、地域性の表現する部分はどういったところなのかについて教えてください。  
 

おぐまさん:「作品はデジタルアートが地域につき5点、それと実際に印刷して手に取れる作品として制作したものも地域につき5点なので、合計20作品ほど制作しました。」 


ーーーーかなり多いですね!いくつか紹介していただけますか? 


おぐまさん:「はい。まずは水窪のデジタルアートの作品を紹介しますね。これは『水窪じゃがた』と呼ばれる水窪の在来種のじゃがいもをモチーフにした絵です。小ぶりなのが特徴で、串焼きにしたり、そのままかじったりして食べるみたいですよ。水窪じゃがたの品評会みたいなのもあるとお話を伺って、それで今回ネックレスとかイヤリングなどの水窪じゃがたアクセサリーという作品にしてみました。」 


おぐまさん:「これは、先ほども紹介した『年取り膳』の焼いてあったサンマですね。円満を願ってサンマを丸く焼くっていうもので、それを真似して他の動物たちも丸くなって、みんなで円満を祈願している様子を想像して絵にしました。」
 


ーーーーかわいい!見ていてとても穏やかな気もちになりますね。水窪の作品をつくるにあたってこだわった点はありますか? 


おぐまさん:「水窪はとにかくインプットが盛り沢山で、1回持ち帰って整理する必要もありましたね。それぞれ見せてもらった場所の成り立ちとか背景とかも詳しく知りたいなと思ったので、文献を読んだりしました。そのうえで、現地で感じた思いつきのアイデアとか自由な発想を大切にしていて、現地でメモしたラフも参考にしましたし、バランスを取りながら作品の制作を行いましたね。」 

ーーーーなるほど。時間をかけて地域の特性を自分なりに消化しつつ、現地で感じたインスピレーションと掛け合わせて作品にしていったんですね。尾鷲の作品も見せていただけますか? 

おぐまさん:「はい、尾鷲もデジタルアートの方を紹介していきますね。これはさっき苔が森の保水の役割を担っている話をしたと思うんですが、そこから発想を膨らませて、動物たちが苔でパックをつくって保水している様子を絵にしてみました


 



おぐまさん:「これは『尾鷲ヒノキバースデーケーキ』です。尾鷲のヒノキは等間隔で植えられていて、一本一本が細く、電柱みたいに伸びているのが特徴だというお話を聞いて、そこからバースデーケーキのろうそくを連想して描かせてもらいました。」 


ーーーーお皿のところに尾鷲の森に生息する「アカハライモリ」がさりげなく乗っているのがかわいいですね。尾鷲の作品をつくるにあたってこだわった点はありますか? 
 

おぐまさん:「尾鷲も水窪のときと同じで、地域の特徴について調べたうえで、その場で感じたアイデアを参考にして作品を制作していきました。ですが、尾鷲の『みんなの森』の説明が印象に残っていて、結構その場で思いつくアイデアが多かったですね。」 
 

ーーーーそうだったんですね、ありがとうございます。 



 

今回制作されたデジタルアートは、2025年5月(予定)にJR東海の「ずらし旅」選べる体験クーポンの一つ、エシカル特典選択時の「地域貢献の証」として提供され、また、株式会社paramitaの「SINRA」を通じて広く発信・公開される計画です。 

また、デジタルアートとは別に制作される、紙に印刷された作品は、実際にフィールドワークを行った2つの地域で販売される予定です。デジタルアートのものとはまた別のイラストになっています。どの作品も地域の小さな発見や魅力が伝わるユーモアあふれる作品になっています。ぜひ現地に足を運び、手にとって感じてみてはいかがでしょうか。 


最後に、一言メッセージ


ーーーーそれでは最後に、実際にこのアートを手に取る方や、地域を訪れてみようとしている方へ、一言メッセージをお願いします。 

おぐまさん:「地域の人だったり、歴史だったりとか、初めての体験をたくさんさせていただいたなと思います。みなさんも足を運ばれる際は、普段とは違う非日常の旅の時間を楽しまれると思うのですが、その地域にしかないちょっとしたユニークなものだったりとか、その地域のもつ物語や歴史だったりとかを、作品を通じてクスッと笑えて、気軽に楽しんでもらえるようなきっかけになれば嬉しいなと思っています。」 


ーーーー興味深いお話でした。お時間取っていただき本当にありがとうございました! 

編集後記

フィールドワークというリアルな地域との出会いから生まれたアートは、まさに「地域のユニーク」を可視化したもの。おぐまさんの感性を通して描かれたユーモアあふれる作品たちが、旅する人と土地の物語をつなぐきっかけとなることを願っています。

執筆

高橋幸一(株式会社paramita)


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