【前編】駅の可能性をみんなで考える(さかさま不動産・たじみDMO・JR東海)
- 日 程
- 11/14
- 場 所
- 岐阜県多治見市
単に電車が停まり人が乗り降りする場所というだけでなく、駅という場所は地域の人たちにとってもっと深い意義や存在価値があるはずです。
今回のプロジェクトはJR多治見駅を舞台に、駅を起点としたまちの賑わい創出の仮説実証を行い、「まちにおける駅の価値」を検証します。
実証実験を行うメンバーで多治見のまちを歩いて、さまざまな人にお会いしながら「駅」という場所を活用して何ができるのかを探ってみました。
INDEX
- 【駅・さかさま不動産・まち】何が起こせるのか⁈
- まずは駅長にごあいさつ!
- 駅の遊休スペースを見学
- 駅からまちへ
【駅・さかさま不動産・まち】何が起こせるのか⁈
-連携のきっかけについてJR東海とさかさま不動産が多治見駅で話す-
水谷:今回のプロジェクトは、今年の夏にJR東海さんが企画するconomichi(コノミチ)のイベントに、さかさま不動産の代表として僕が登壇させていただいたことがきっかけになっています。その後もさかさま不動産としてJR東海さんと一緒にできることはないだろうかと考えていました。するとJR東海さんがすぐに打ち合わせの機会を作ってくださって、せっかくなら会議の中であれこれ考えているよりも、良いフィールドがあればそこで実際に動いてみようということになり、今日こうしてみなさんにお集まりいただきました。
実験の舞台として僕らの方から多治見を提案させていただきました。このまちには長年まちづくりに関わる活動を続けているたじみDMOのみなさんがいて、商店街の中にはさかさま不動産でマッチングさせていただいたお店もあります。しかもJR多治見駅の敷地の中には活用できそうな空きスペースもあるということで、この駅とまちをモデルにJR東海とさかさま不動産、たじみDMOの三者が連携して実証実験ができたらと思っています。
今回のプロジェクトについて、あえてテーマを立てるとしたら「駅の存在価値ってなんだろう?」みたいな感じだと思っています。単に電車が停まり人が乗り降りする場所というだけでなく、駅という場所は地域の人たちにとってもっと深い意義や存在価値があるはずです。それなのに多くの人が駅と地域とが分断されているように感じていて、でもそこにはきっと大きな可能性が眠っている気がするし、JR東海さんとしてもこれからもっと地域と繋がっていきたいという思いがある。そんな現状を踏まえて今日はみんなで多治見のまちを歩いて、さまざまな人にお会いしながら「駅」という場所を活用して何ができるのかを探っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします!
一同:よろしくお願いします!
まずは駅長にごあいさつ!
-多治見駅北口にて-
水谷:まち歩きの前に、起点となる多治見駅を見学させていただきました。駅長の野村さんにもお話しをうかがいたいと思います。よろしくお願いします!
野村:こちらこそよろしくお願いします。私も今日はみなさんとお話しできるのを楽しみにしておりました!
水谷:僕らは「さかさま不動産」というサービスをやっているんですが、今回、JR東海さんとご縁ができたので、初めは各駅にポスターを貼ってもらうことで多くの人たちに僕らのことを知ってもらえたら嬉しいな、くらいに思っていたんです。でもいろいろお話しをうかがってみると、駅構内や駅前にも空きスペースがたくさんあるということを知ってちょっと驚きました。
白石:駅構内や駅前の空きスペースを使ってこれまでにもお店を開いたりイベントを行ったりはしているんですが、なかなかみなさんに周知できていなくて。そういう仕組みがあるということ自体あまり知られていないのが現状です。
野村:ほとんどの方が知らないでしょうね。
水谷:駅ってすごくパブリックな場なので、一般の人にとって不可侵領域なんだろうなっていうイメージがあります。そもそも僕らが〝駅を使う〟なんていう発想がないし、使うことはできないんだと思い込んでいました。
白石:私たちとしては駅を広く開かれた場所として、さまざまな人に使っていただきたいですし、ともに地域を盛り上げていけたらいいなという思いがあります。地域のみなさんとの関係性を築いていけたら、駅に求められていることも自ずと把握できるようになるのかと思います。そういった模索をしているなかでさかさま不動産のみなさんにお会いすることができ、この出会いが良いきっかけになるのではないかと期待しています。
水谷:それぞれの立場から有意義な使い方について意見交換ができるといいですね。ところで駅長さんは日頃、駅を守り管理や運営を担っている立場として、駅の活用や地域との繋がりということに対してどんなふうに思っていらっしゃいますか。
野村:多治見駅に限ったことではなく、空いている場所をどんどん使っていこうという流れはありますね。従来の駅としての役割以外の視点も入れつつ、空きスペースを有効に活用することで新しいビジネスチャンスが生まれたり、地域活性にも貢献できる、そんな可能性を感じる場所はたくさんあると思います。多治見駅の場合、改札の中がとても広いので今はそこにガチャガチャを置いているんですが、これもひとつの構内営業ということで去年から始めたんですよ。
水谷:そういえばカプセルトイが並んでましたね。それは駅長さんの判断でできちゃうんですか?
野村:構内営業を希望する事業者が当社窓口に申請いただくと、構内営業を許可して良いか駅に照会が入り、駅ではお客様の流動を妨げないなどの条件を考慮したえうでOKを出します。
水谷:これまでに一般の方から駅のスペースを使わせてほしいみたいな相談や問い合わせってありましたか。
野村:駅の中で何かやってみたいという地域の方の声を間接的にお聞きすることはありましたが、駅に直接相談が来たことはないですね。
坂本:そもそも僕らが駅を使えるとは思っていないから、具体的な相談までいかないんじゃないですかね。
水谷:そうでしょうね。坂本さんは全国の地域の事情などもいろいろ見て来られたと思うんですけど、駅を活用されている事例って何かご存知ですか。
坂本:奈良県の京終(きょうばて)という駅は駅舎の中に喫茶店があって、電車を待ちながらお茶が飲めるようになってます。地元の建築事務所さんが経営する宿と一緒に、まちの人たちが運営を任されているんじゃなかったかな。あと山口県の下関にある阿川駅には、「小さなまちのkiosk」っていうちょっとイケてるキオスクがあります。地元にUターンしてゲストハウスを始めた人がプロデュースしたものだと聞きました。
野村:私も電車で旅行に出掛けることがありますが、私鉄のローカル線の駅舎が喫茶店になっていたり、駅がバイク乗りの人たちの集まる場所に使われていたりするのを目にしたことがあります。最近はそういう動きがJRの駅でも始まっていますよ。
白石:少しずつ進めているところですね。
水谷:ちなみに多治見駅で駅長さんが個人的にやってみたいことってありますか?
野村:僕はお酒が好きなので、お酒好きな人が集うようなことができたらいいですね(笑)
水谷:駅の中で立ち飲みですか⁈それ、めちゃめちゃ楽しそう!でもさすがに飲み屋さんは無理かな。
白石:先日、愛知県の武豊線にある亀崎駅の駅舎に隣接する、使われていなかった庭のようなスペースを地域の⽅と協力して使えるスペースに変え、そこで地元の酒蔵さんが日本酒と一品料理を出すイベントがありました。
水谷:お酒の出店もできるんですね。
白石:条件にもよりますが、駅や鉄道を利用されるお客様の安全が守られれば、実現できると思います。
坂本:でも、駅の中に場所を借りるとなると賃料が高いイメージもあるけどそこはどうなんでしょう。
白石:おそらくみなさんが思われるより出店しやすいのではないかと思います。
坂本:そうなんですか?
白石:私たち構内営業の考え方としては、普段、駅をご利用いただく方や地域にお住まいの方々に向けてのお客様に付帯したサービスとして実施するものなので、利益優先というわけではないんです。
坂本:なるほど。そこで無理に利益を生み出さなくてもいいということか。
白石:それよりもお客様の利便性向上やにぎわい創りを重視したいですね。
水谷:あと、これは僕が駅に降り立って勝手に感じていることかもしれないですけど、きれいに整備されてる駅舎ってどこも同じような風景に見えてしまうんですよね。例えばそこに地酒があるとか、なにか地元らしさが伝わるものがあればもっと体感的にそのまちの良さを感じられるんじゃないかな。
野村:そうですよね。そこもここ1、2年でずいぶん変わってきているとは思います。
白石:やはり大きな転機となったのはコロナ禍です。鉄道を利用される方が激減し、ビジネスシーンではリモートワークが浸透して移動や外出の機会が大幅に減り、新しい生活様式が定着しました。そんななか、今後は駅に新しい価値を持たせ、実際に足を運びたくなるようなワクワクする場所に変えていきたいですし、地域のみなさんとともにさまざまな取り組みに力を入れていきたいと思っています。
水谷:多治見は焼き物の産地なので、岐阜県の地酒を集めてそれを美濃焼の器で飲めたりしたら楽しいんじゃないかな。駅の中で地元の酒蔵さんが日替わりでお酒を出してくれるなんて最高じゃないですか。
野村:最高ですね〜!
坂本:駅長さん、そのうち家に帰れなくなりそう。
一同:爆笑
水谷:野村さんが多治見駅の駅長さんを務めていらっしゃるうちに、ぜひ、地元のお酒が楽しめる立ち飲み屋さんを実現させたいですね!
駅の空きスペースを見学
-多治見駅南口にて-
駅前広場など空きスペースの可能性を考える
水谷:まちと商店街を繋ぐ南口の広場に来てみました。大きな屋根が付いてていろいろな使いみちがありそう。でもあまり使われている様子がないですね。
田平:大きなお祭りの時に屋台が来たり、ステージとして使われたりするんですが、普段はほとんど使われていませんね。
坂本:もともと何のために作られた場所なんですか。
白石:ここができた当時のことを知る社員が部署におらず、使用目的までははっきりわかっていません。
水谷:広場というからには人が集まって何かをやる場所というイメージですけど、実際はどうなんでしょう。
白石:なかなか活用できていないと思います。
水谷:まちの人たちには使っても良い場所だと認識されているのに、実際にはほとんど使われていない。そこが興味深いですね。
白石:借りる仕組みとか問い合わせ先とかがあまり公にされていないので、わかりづらいのかもしれませんね。
坂本:JRさんの方に、こういう場所を使いたいという問い合わせはあるんですか。
白石:弊社のご相談窓口「JR東海サービス相談室」には時々お問い合わせをいただくことがあります。例えば、どこどこの駅にキッチンカーを出したいみたいな内容の場合、窓口でお受けした内容を駅にお繋ぎして実現に至った事例はあります。
水谷:JR東海さんの管轄内には駅が全部で400くらいあると聞いたんですけど、そういう問い合わせに対して何人ぐらいの社員さんが対応されているんですか。
白石:4人くらいですね。件数でいうと週に数件ですが、今後件数が増えていった場合はもっと効率的にお応えできるようにしないといけません。
坂本:先ほど野村駅長とのお話しにも出ましたが、駅に直接相談してはダメなんですか。
白石:いいえ。多治見ではありませんが駅長のもとに直接お問い合わせがあって、そこから実現した事例もあります。これまで人手の問題などもあってなかなか手が回っていなかったのですが、これからは地域の方たちと手を組みながら空きスペースの活用を促進して、一緒にまちを盛り上げていけたらと思います。
水谷:多治見のまちづくり団体で活動されている田平さんとしてはどう思われますか?
田平:仕組みを整備してうまく機能すれば、まちの中からも借りたい人がたくさん手を挙げてくれると思います。駅を使って何かやれるんだというイメージが広がれば、今後は各地で事例がすごく増えるはず。とはいえJR東海さんがご苦労されている状況もすごくよくわかるし、業務が細分化されるとさらに大変になるだろうなとは思います。そういった課題はどう解決していくといいのでしょうね。
水谷:例えば使用の条件などを取り決めた契約書のようなものを、JR東海さんとたじみDMOさんとで交わして正式な契約を作っておく。あとはDMOさんが窓口になって、そこを通すだけでまちの人が使える仕組みを作るとか。
坂本:サブリース方式ね。確かにそれはいいかも。
水谷:サブリース的なモデルなら他の地域づくり団体の方たちもけっこう取り入れてますよね。ただ相手が行政とかまちの中で行われていることがほとんどで、駅との間でというのは聞いたことがない。けど、地域団体が窓口になってくれたら使う人をきちんと選定してくれるし管理も任せられる。しかも文脈的にもそもそも地域のために出店してくれる人を選んでくれるはず。
坂本:やっぱり駅ってすごくパブリックな場所という印象があるから、そこをきちんと丁寧にしないと「なんでこの人がここで店出してるんだろう?」みたいな意見も出てきそうやしね。
水谷: 一つのフィルターとして、いつか多治見でお店を構えたいという夢を持っているとか、将来的にまちのためになってくれそうな人を条件にするとか?
坂本:あとはやっぱり、最初にモデルステーションを作っちゃうのがいいんじゃないかな。多治見駅でもいいと思うんですけど、まずはそこに注力してガチッと先行事例を作ってしまう。そこから課題とか効果とか具体的に見えてくるものがあるじゃないですか。どんな座組だったら上手くいくかとかね。それをもとに全体の方向性を考えていくのはどうですか。
白石:そうですね。これまで地域の事業者さんたちとの繋がりがあまりなかったのは我々にとっては大きな課題ですし、多治見のまちでDMOさんのご協力のもと、そのようなことが始められたら、より良い地域の事業者さんと繋げていただけますね。
水谷:今回のようにみんながうまく噛み合うことってなかなか難しいかもしれないですけど、今後、他の駅や地域にも目を向けて、そこについても調査をしてみるといいかもしれないですね。
白石:ぜひやりたいですね。
水谷:ところで向こうの階段下の日陰のスペース、良い感じに場末感があっていいですね。この広場もいいけど僕はどっちかというとあの雰囲気の方が落ち着くし居心地がいいな。
白石:暗くて使えそうにない場所かなと思っていたので、まさかあの場所にも興味を持っていただけるとは思いませんでした!
水谷:現地に足を運んで自分の目で見てみないとわからないですよね。やっぱり実際にその場に行ってみるって大事だし、他の駅にもきっとそういう発見があると思う。
白石:私たちでも見過ごしているような場所がまだまだありそうですね。そこに価値があるかどうかも自分たちでは判断できなかったりもしますし。思いもよらないところにも実は価値や可能性があるんですね!
水谷:じゃあ、いよいよまちに出かけてみましょう!
駅からまちへ
-商店街にはどんな店があるんだろう-
水谷:駅から商店街の方に歩いて来ましたが、駅前には昔ながらの商店街があって、一本路地を入ると小さなお店が並んでいる。地方のまちって大体どこも似たような感じなのかなと思うんですけど、僕の印象では多治見の駅前って面白いお店が多いイメージがあります。
坂本:雰囲気ありますよね。
田平:わあ〜!そう言っていただけると嬉しいです。駅から続くこの「ながせ商店街」には、昔から続くお店もありますし、最近では若い人の出店もどんどん増えて来てるんです。
[まちなかほんだな]
ながせ商店街の一角に設置された「まちなかほんだな」
24時間365日、いつでも誰でも利用でき、持ち帰りも追加も自由。
まちなかほんだな運営委員会が運営。
田平:2年ほど前、まちの方から「ここに本棚を置きたいんですけど」という申し出があって、「どうぞ〜」みたいな感じで開設してもらいました。いつでも誰でも利用できて勝手に本を置いていって良いことになってるんです。並んでいる本のジャンルが最初の頃と比べて最近はちょっと大人っぽくなってきているのが面白いんですよ。
水谷:まちの中でこんなことができちゃうことが面白いですよね。まちや商店街への出店のきっかけって、基本的にはたじみDMOさんが不動産を借りてサブリースという形で後押したり紹介して入られたりという例が多いんですか。
田平:そうですね。空いている物件とか、どこか良いところはないですか?みたいな相談は時々。そこから大家さんに繋いであげたり知り合いの方を紹介したりしています。
水谷:駅とまち、どちらもパブリックな場所でひと続きなのに、情報の集まり方にこれほど違いがあるんですね。
白石:本当にそうですね。
坂本:日頃、まちの中で生活したり活動しているから空いてる物件のこともすぐわかるけど、JR東海さんの場合、基本は駅の中が仕事の場。細かい情報まで掴みにくいのも無理はないよね。
水谷:同じようなことは全国的にも言えるでしょうね。白石さんはまちの中で寂れてしまった商店街や空き物件が再生していくことについてどう思われますか。
白石:もちろんすごく良いことだと思います。ただ、ちょっと寂しいなと感じるのは、駅とまちとが乖離してしまっていて地域の方からは駅が遠い存在だと思われてしまっていることですね。せっかくまちの玄関口としての機能を持っているのだからそこの間の距離を埋めていけたらという思いを強く感じます。
水谷:それには両者が歩み寄ることが必要なんでしょうね。駅とまち、どちらが積極的に動く方が話が早く進むんだろう。例えば、すでにまちの中にあるこの「まちなかほんだな」の2号目を駅に作っちゃうとか?
田平:それいいですね!
水谷:すでにまちの中にあるものが駅にもできれば、それだけで駅が地域に協力してくれていることのアピールにもなりそう。ということは、まちから駅に持ち込むやり方が早いのかな。
坂本:あと公共施設ってどこにでもあるチェーン店とかが入りがちで、駅前はどこも似たような風景になりやすい。そのまちにしかないようなものがあったら、まちと繋がった駅なんだなっていう印象になっていくんちゃうかな。
白石:おっしゃるとおりですね。
水谷:駅の構内で何かができるなんて考えたことがなかったけど、本当はできるんだとわかっただけでワクワクします。あとはそれをより良い形で進めていくにはどういう方法や仕組みが必要なのか、引き続きいろいろとアイデアを出し合いたいですね。この後はまちの方たちにもお会いしてご意見をうかがってみましょう。
(後編へつづく)
conomichiでは
【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。
訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。
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