地域を巻き込むマインドセットは「足を運ぶこと」から始まる!【キャリアの学校 with LOCAL 特別公開会議 vol.2】
- 日 程
- 9/1
- 場 所
- 愛知県名古屋市
地域で活躍するローカルプレーヤーの仕事をめぐりながら、自分らしいキャリア像を発見する「キャリアの学校 with LOCAL」。第2回目である2024年9月1日は三星グループ代表/ひつじサミット尾州 代表発起人である岩田真吾さんと、株式会社ヒダカラ 共同代表の舩坂香菜子さんによるオンライン・トークセッションを開催しました。
トークテーマは「地域を巻き込むマインドセット」。モデレーターはJR東海 事業推進本部 係長 / conomichiプロデューサーの吉澤克哉が務めました。
三菱商事に新卒入社後、コンサルティングファームであるボストン コンサルティング グループ(以下BCG)を経て、2010年にご実家の繊維素材メーカー「三星グループ」の後継ぎとして地元・岐阜県にUターンした岩田さん。そして楽天グループでECコンサルタントに従事したあと、飛騨市役所への出向を経て、2020年にヒダカラを創業した舩坂さん。
独自のキャリアを歩んできたお二人は、前職での経験をどのように活かし、事業を推進する環境を整えていったのか。また地域で事業を立ち上げ、周囲を巻き込でいくために必要なスキルとアクションとは何か。実体験に基づいて語り合いました。
INDEX
- 人生が180度変わったキャリアチェンジの瞬間
- 大企業で培った経験やスキルが、地域にスポッとはまる
- まずは足を運び、出会いをチャンスに変えよう
人生が180度変わったキャリアチェンジの瞬間
▲1887年に創業した歴史ある繊維会社の三星グループ。岩田さんは“五代目アトツギ”として2010年から代表を務める
岩田:入社時は、将来家業を継ごうとはあまり考えておらず、家業がない一般的な新入社員として「ここで何かを成し遂げよう」というモチベーションでした。
もちろん大学前までは、後継ぎとしての責任も感じていたんです。でも大学入学とともに上京し、さまざまな企業のインターンを受けたことで世界が広がったんですよね。それで考え方が柔軟になったというか。
ただ実際に働いてみて、大企業ならではの仕事のダイナミズムを感じつつも「早く自分で事業をやりたい」という気持ちが次第にむくむくと大きくなってきたんです。ただ、1社経験しただけでわかった気になったら間違えるので、もう1社ほかの会社を経験したいと思い、日本の伝統的な大企業とは対極の企業、外資系企業のBCGに転職したわけです。今ならスタートアップかもしれませんね。
吉澤:転職後そのまま東京で独立する可能性もあったと思います。なぜ拠点を地元に移し、家業を継ごうと決心したのでしょうか?
岩田:ある時、ふと自分が「後継ぎ」であることを思い出したんです。
東京や世界で学んできたことを、地元──しかも、100年以上の歴史をもつ企業の経営を革新するために活かしたほうがユニークなのではないか、と考えるようになりました。
何より、当時はローカルでビジネスを始める人もほとんどいませんでしたからね。自分が商社やコンサルで経験してきた仕事を回せるスキルをもつ人も、東京にはまあまあいるけれど、地方にはいなかった。「自分の能力を生かすなら地元だ!」と決意して、2010年にUターンしました。
▲2010年に家業を継ぎ、リーマンショック後の事業の立て直しに挑戦。新型コロナウイルスの流行で繊維産業全体が傾いたのをきっかけに、2021年から産業観光イベント「ひつじサミット尾州」を開催するように。
吉澤:では、「自分の故郷に戻る」というのはごく自然な選択だったんですね。
岩田:我ながらすごくストレートなキャリアだな、と感じます。メディアの取材で「それまでのキャリアを捨てるのは怖くなかったか」なんて聞かれたこともあるのですが、そんな気持ちは一切なくて(笑)。
むしろ地元に戻ることを決めた時は、自分の人生がユニークになりそうで希望に溢れていました。
吉澤:ありがとうございます。舩坂さんは楽天グループでのECコンサルタントを経て、飛騨市役所に出向後、2020年に独立し株式会社ヒダカラを創業しています。キャリアが移り変わるタイミングで、どういったことを考えていたのでしょうか?
舩坂:実は、楽天から「飛騨市役所に出向しないか」と提案されたのが絶妙なタイミングだったんですよ。ちょうど夫が地元・飛騨へUターンを決意した時期で。
当時の私は楽天での仕事に飽きてもいたし、「今までのキャリアで培ったことを活かして、高山でゆるっとECコンサルでもやるか〜」とぼんやり考えていて。すでに退職届も提出していたんです(笑)。
でも、退職日のちょうど1ヶ月くらい前に当時の上司から電話がかかってきて、出向の話をもらいました。話を聞けば飛騨市長も面白いし、新たな取り組みをどんどん進めていくような勢いがある。「こんなに面白そうな環境もないだろう」って感じたんですよね。
良いチャンスだと思い、退職届を取り下げて飛騨市役所への出向を決意。ふるさと納税を切り口に地域の特産を全国へ届けるプロジェクトに2年間携わります。
▲2020年4月より、地域の魅力を見つけ輝かせる地域商社 (株)ヒダカラを創業。“もっと売りたい・もっと広めたい”のために関係する方々・企業や地域を巻き込み、インパクトを生み出している。
出向のチケットを手に入れた瞬間、まさに人生が180度変わりました。
もともと私が描いていた「ゆるっとECコンサルでもやろう」という道を選んでいたら、ここまで地域にインパクトを与えられる仕事はできていなかったと思います。
何より市役所での経験やつながりが土台になって、事業規模の大きさや地域の巻き込みにつながっていると感じます。
大企業で培った経験やスキルが、地域にスポッとはまる
吉澤:市役所時代に限らず、舩坂さんは前職でのどういった経験が、現在のヒダカラの運営に活きていると感じますか?
舩坂:まずは楽天で「さまざまな制約があるなかで結果を出す」ことに徹したことが、今につながっていると感じます。
出向する以前は、自分でゼロから仕事を作っていくのではなく、会社から与えられた仕事や目標をこなすことがほとんどでした。担当エリアや企業も決まっている状態。それでも成果を出すために、ひたすら出店者さんの売上アップに奔走していました。
大変でしたが、今思い返すとめちゃくちゃ貴重な経験でしたね。農家からアパレルブランドまで、規模もジャンルも様々な出店者さんたちがどういった制約を抱え、何に悩んでいるかを学ぶきっかけになりましたから。当時の知見が現在の活動に反映される瞬間はあります。
あと市役所で「ベンチャーっぽさ」を経験できたことも大きいです。
市役所って基本的に予算が年度始めに決まってしまっているのですが、補助金などを駆使して自分自身でお金を確保できさえすれば、新しいことを始められるんです。まさにベンチャー企業が自分でお金を調達し、事業を始めるのと近いんですよね。
いま公務員として働いている人たちには、このことを強く伝えたいです(笑)。
吉澤:市役所が「ベンチャーっぽい」というのは新たな視点で面白いです。逆に、これまでの経験が邪魔をする瞬間、というのもありませんでしたか? お二人のようにローカルに拠点を移した人の中には、都心部とのギャップに苦しむ人も少なくはないと思うのですが……。
舩坂:私の場合、楽天の「売り上げを作るためにKPIを設定し、目標に向けてひたすら突き進んでいく」というスタイルが、なかなか周囲から受け入れられなかったのは悩みでした。
新卒からずっとその働き方だったので、そういった仕事の進め方しか知らなかったんです。だから市役所に入って最初の頃は、数字ベースでの考え方が通じないことがカルチャーショックでしたね。
ただ、あまり空気を読まずにそのスタイルを貫き続けていたら、徐々に周りも理解してくださって。何より市長が自分の取り組みに理解を示し、自分のやりたいようにやれる環境をトップダウンで整備してくださったことは大きかったです。
▲ヒダカラのプロジェクトの一つである「おうちで飛騨牛」。飛騨農業協同組合(JAひだ)、十六銀行グループ、飛騨信用組合の3つの金融機関にと、業種を超えて「オール飛騨」となり、飛騨三市一村自治体と協力し、コロナ渦で行き場を失った飛騨牛を救うため、飛騨牛に携わるすべての方と飛騨牛のブランドを守る取組みを行なった
岩田:僕は逆にKPI重視で事業を推進していこうとして、一時期は毎週KPIを詰めまくっていたんだけど、そもそも繊維業って成長産業ではないなかで、その進め方だと相性が悪くて。周りを疲弊させてしまったという側面もありました。
実は「KPI重視のマネジメントに、ローカルが順応できず疲弊する」という失敗談はよく聞く話です。
舩坂:楽天時代に良い塩梅のKPI設定の仕方を学んできたのと、KPIの設定者も実行者も自分だった、というところは大きいかもしれないです。
岩田:特に地域である程度キャリアを積んでいる人に、突然外から来た人間が「目標を設定し実行してください」なんて指示した日には、「何なんだ」と思われかねないじゃないですもんね。だからこそ舩坂さんがスタイルを変えずに活躍できたのは素晴らしいと思いました。
舩坂さんの話をきくと、地域で事業を立ち上げたい人ほど、一度大企業で学ぶことはとても良いキャリアパスだと感じますね。
吉澤:今の目標設定の仕方などはイメージしやすいところですが、岩田さんが前職で培ってきた能力で今に活きている能力はありますか?
岩田:会議体の設計や議事録の作成など、プロジェクトマネジメントスキルは役に立っていると思います。あと意思決定の材料になるような資料を作成したりといった、ロジカルシンキングですね。
都市部ではそういった能力を持った人も多いと思います。でも、ローカルではまだまだ普及していなかったりするので、「自分が役に立った」と感じる瞬間は多々あります。
一方で、僕はECのプロである舩坂さんのように何かの専門家というわけではありませんし、現在携わっている商品開発の仕事だって前職とほぼ関係ない。特殊なスキルは持っていないけれど、地域で事業を続けられています。
みんながすべての能力を身に付ける必要はないし、できるわけがない。自分が本業で培ってきた「ここで戦えるな」というスキルを活かせる場所にいくのが大事です。
地域にはいろんな課題があるからこそ、自分の培ったスキルがちょうどスポッとハマる瞬間は、必ず訪れます。重要なのは「地域に役に立つためのスキルを学ぶ」というよりも、「今まで培ったスキルを発揮できそうな場所を選ぶ」ということ。そうすれば信頼感も勝ち取れるし、自ずと周囲を巻き込めるようになると思います。
まずは足を運び、出会いをチャンスに変えよう
吉澤:地方の魅力として「今の自分を評価してくれる」ということがあるなかで、自分のスキルを発揮できそうな場所や、自分のやりたいことにフィットする場所を見つけることは、かなり大事だと感じました。一方、自分の能力が活かせる地域へ自力で辿り着くのも難しそうですよね。「場所探し」のために、どういったアクションを取れば良いのでしょうか?
岩田:まずはこういったオンラインセッションやワークショップ、現地の集まりなど、いろんな場所に足を運ぶことが大事だと思います。旅行でも構いません。そして行く先々で、自分がどんなことをやりたいか、どんなスキルがあるかをいろんな人に伝えていくんです。
自分のスキルが分からなければ「今後こうなるかも」という予想ベースでも良いです。どんな夢やビジョンがあるかだけでも、表に発信していってください。多くの人に自分の話をしていくうち、自然と「こんな人がいる」という情報は広まっていきます。
そのうち「やってみる?」と声がかかります。信頼できそうな人からの依頼はとりあえず「はい」か「Yes」と答えてみてください。とりあえずやってみるんです。というのも、外からの仕事の依頼というのは、自分を写す鏡ですから。
僕も知人から紹介を受け、北海道の上川町という温泉街とアイディアの壁打ちを1年くらいやっていたんですよ。「温泉観光地のまちづくり」なんて、一見すると僕の仕事と関係がないように思えるじゃないですか。
でも仕事を紹介されたり相談を受けたりする、ということは、外から見たときに「この仕事の適任者が僕」だということなんですよね。自分が気づいていなかった自分自身の強みや、未知なる自分を発見するチャンスです。
舩坂:今のお話はすごく大事ですよね。岩田さんのご意見に加え、人とのコミュニケーションを通して「何に困っているか」を聞ける関係性が構築できるようになると、自ずと自分の宿題も見えてくると思います。そして宿題に取り組むなかで、自分の強みが見つかることもあるはずです。
「この人を助けたい」「この人と仲良くなりたい」という存在をまず1人見つける。そこからどんどん繋がりが増えていくのもローカルの魅力で、人が人を紹介していき、自然と自分のネットワークが生まれていきます。
▲ヒダカラの事業の一つである「深山豆腐店」の事業承継。コロナ禍による売り上げの低下と経営者の高齢化によって2021年に閉店した豆腐店の承継者を探し、通販や商品開発、製造をサポートすることで、伝統的な石豆腐作りの文化を守っている
吉澤:僕自身も「conomichi」を去年始めてから、人の紹介に助けられて、ここまで続けられているので、すごく腑に落ちました。
現地に行って一歩を踏み出すということは、自分の人生が変わる出会いにもつながります。このイベントも誰かのアクションを後押しするきっかけになれば嬉しいです。最後に、岩田さんと舩坂さんから一言ずつ、参加者の皆さんに向けメッセージをお願いできればと思います。
岩田:地域と関わるうえで重要なのは「正しく利他的」であることだと思います。
今日このプログラムで勉強している人たちは、自分の人生を作りに来ていると思います。それを否定はしませんが、「俺が幸せになりたいから、お前のフィールドを使わせてくれ」と外から人がズカズカ入ってきたら、気持ち悪いじゃないですか。
そうではなく「本当にあなたのために何かをやりたいです」という動きで地域へ入っていくことを忘れないでください。どんどん未来へとつながっていくと思います。
そして「正しく利他的」に行動していると、巡り巡って自分に還ってきます。
「俺が!俺が!」と実行したプロジェクトが成功した時の喜びが100だとしますよね。でも人のためにやったプロジェクトが大成功して、自分にも還元されたときは、1,000どころじゃない。1万とか10万のレベルで嬉しいんですよ。
それを味わってしまうと「自分のためだけにやってもつまんねえな」という体質になっていきます(笑)。ぜひまずはいろんな場所へ足を運び、自分が輝ける場所、「正しく利他的」になれる場所を見つけてみてください。
舩坂:私も最初から「ローカルで事業を始めよう」と思っていたわけではありませんでした。でも、飛騨に来て始めて気づいたこともあったし、それこそ人生が大きく動く瞬間もありました。
一緒にプロジェクトを走らせてきた事業者さんに「人生が変わった」と言われたことも何度かあるんです。そう言われると「この瞬間のために仕事してる!」と嬉しくなります。地域での活動を通し、ぜひそういった経験を味わっていただきたいです。
吉澤:岩田さんの運営する「ひつじサミット」や今回の「キャリアの学校」をはじめ、地域にフォーカスしたイベントは日本全国で日々開催されています。ぜひ積極的に足を運んでみてください!
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■プロフィール
三星グループ代表
ひつじサミット尾州 代表発起人
岩田真吾(いわたしんご)
三菱商事・BCGを経て、世界有数の毛織物産地である尾州で130年続く老舗起業のアトツギとしてUターン。「ひつじサミット尾州」や、アトツギ×スタートアップ共創基地 TAKIBI & CO. (タキビコ)などを立ち上げながら、地域や産業の活性化に向けて活動中。
(株)ヒダカラ 共同代表
舩坂香菜子(ふなさかかなこ)
楽天グループ株式会社でECコンサルタントに従事した後、地域活性マネージャーとして飛騨市役所に出向。2020年4月より、地域の魅力を見つけ輝かせる地域商社 (株)ヒダカラを創業。2021年に岐阜県白川村の『深山豆富店』を未来に残すためM&A。
地域に、豆腐に、奔走中。
東海旅客鉄道株式会社
事業推進本部 係長 / conomichiプロデューサー
吉澤克哉(よしざわかつや)
2016年に入社後、JR東海MARKETの立ち上げ等に従事し、名古屋の行列スイーツ「ぴよりん」の無人受取サービス等、多数のプロジェクトを担当。2023年には、若手3人の有志で立ち上げたワーキンググループから「conomichi(コノミチ)」を事業責任者として立ち上げ。心ひかれるストーリーで地域と訪れる人をつなぎ、沿線地域に関わる人を生み出すことを目指している。
conomichiでは
【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。
訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。
今まで知らなかった場所へ出かけて、その地域の風土や歴史・文化にふれ、その地域の人々と共に何かを生み出すこと。そこには好奇心を満たしてくれる体験があふれています。
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中島綾平 一棟貸しの宿「燕と土と」オーナー長野県飯田市
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地域住民と移住者によるプロジェクトで想いをカタチに
Cafe Lumière(カフェ・ルミエ)JR近江長岡駅
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ヒト×モノ×地域のマッチングで飯田駅に笑顔を「よっしーのお芋屋さん。」
よっしー-「よっしーのお芋屋さん。」長野県飯田市
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メンマ、竹炭、豚の飼料…。竹ビジネスを仕掛ける元船頭が語る「水の循環を守るために竹林整備」の深い理由
曽根原宗夫-NPO法人いなだに竹Links 代表理事、純国産メンマプロジェクト代表長野県飯田市
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ちょうどいいが いちばんいい。 - 「長泉未来人」を通じた「まちのこれから」について
池田修 長泉町長/こども未来課 宍戸浩 課長静岡県長泉町
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皆様と、安祥寺を再び人々の “心を照らす”お寺にしていきたい。
藤田瞬央住職 - 真言宗 吉祥山宝塔院 安祥寺 第六十六世京都府京都市