ローカルでこそ成功する宿の共通点とは?風土や文化、人とのつながりがカギに【Vol.3イベントレポート】
- 日 程
- 6/7
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- 長野県飯田市
全6回にわたるプログラムの構成は、①地域外ゲストスピーカー×飯田市プレイヤーによるオンライントークセッションと、②オフラインで開催される現地プログラムの2本立て。オンライン上でのインプットに留まらず、現地での体験までがセットになっているため、飯田市で活躍する地域プレイヤーの価値観や生き方を、手触り感を持って、楽しみながら探求することができるプログラムになっています。
今回の登壇スピーカーは、世界最大級の旅行コミュニティプラットフォーム「Airbnb Japan」事業開発部 部長の谷口紀泰さんと、古民家宿「燕と土と」オーナー中島綾平さん。飯田市結いターン移住定住推進課の湯澤英俊さん、conomichiプロデューサー吉澤克哉による進行のもと、熱いトークセッションが繰り広げられました。
全国初のエアビースクールで、農家民泊を次のフェーズへ
簡単にvol.1と2を振り返っていこうと思います。vol.1では、TURNSプロデューサーの堀口さんとNPO法人いなだに竹Links 代表理事の曽根原さんをお呼びし、地方創生ならぬ“自分創生”をテーマにトークを行いました。vol.1は約80人にお申し込みいただき、vol.2は現地開催で15名にお越しいただき、皆さんの熱量が伝わってくる2回だったかと思います。
さて今回のvol.3「里山×宿泊から学ぶ“ローカルが秘めた魅力”」のテーマに込めた想いを湯澤さんから伺えますか?
また飯田市では、5月16日からの3日間、自治体としては全国初の「エアビースクール」を開催しました。2021年、Airbnb Japan株式会社と地元の南信州観光公社と飯田市が3者で包括連携協定を結び、「空き家活用」「飯田市で盛んな農家民泊を次のフェーズへ」、「関係人口を増やす」を目的に様々な活動を経てきました。関係人口を増やす取り組みと地域人材の育成は非常に親和性が高く、エアビースクールはその両方を兼ね備えています。全国から14名が参加され、できたネットワークがあたたかく、「また飯田市で学びたい」といって帰られた姿を見て、我々も気付かされ、また第2弾、3弾とやっていきたいと思っています。
宿を起点にした「Airbnb式まちづくり」とは?
谷口:Airbnb Japan株式会社で事業開発を担当している谷口と申します。ノリと呼んでください。よろしくお願いします。
中島:よろしくお願いします!
吉澤:まずはインプットセッションということで、おふたりから話題提供をしていただきます。ではノリさんからお願いします。
Airbnbでは、宿のことをホストとお呼びしていて、全世界で500万人以上の方が宿のホストとして活躍いただいています。Airbnbの一番の特徴は、まさにホストの存在。ホストが、ゲストと地域の面白い方を繋いだり、旅行前からゲストとコミュニケーションを取り旅行工程まで関わったりと、地域の情報発信の場にもなっています。
さらに「Airbnb式まちづくり」にも力を入れています。「Airbnb式まちづくり」とは、ホスト(宿)、自治体、地域プレイヤーという地域の三角形を意識して、三者を緩やかに繋げていくことです。地域の三角形ができることで、宿を起点に関係人口を増やしたり、空き家再生に繋げたり、イベントを開催したり、様々なまちづくりに繋がっていきます。
中島さんの宿もある天龍峡エリアは、景勝地として栄えていましたが、近年は観光客が減少しており、空き家も増えている状況にあります。湯澤さんのアテンドをきっかけに、このエリアで仕掛けようということになりました。
まず、「天龍峡Z世代会議」を開催し、地域内と東京など地域外の若者と、飯田市の佐藤市長も一緒にアイデア出しからスタートしました。 次に天竜峡内の空き家DIYイベントを開催したことで、「うちの空き家も使ってほしい」という問い合わせが増えました。また、農家の方向けに民泊の勉強会をしたり、京都大学大学院の観光MBAの共同研究を飯田市で行ったりもしました。
こういった「地道」な取り組みを掛け合わせていくと、Uターンが増えたり、さまざまなプロジェクトチームが立ち上がったり、空き家を宿として再生する取り組みを仕組み化しようと行政が「エアビースクール」を予算化したりしてくれたりと、次々と目にみえる面白い成果が生まれてきました。
耕作放棄地を開墾し、古民家リノベの大半もDIY…。手探りの立ち上げ期
その後、2020年に飯田市に戻り、古民家を購入して改装して2022年5月に宿「燕と土と」を開業、2023年4月に農園「龍の穂ーリュウノスイー」を開業しました。
最初の土づくりでは、軽トラックで18回くらい堆肥を運び、3日間かけて撒きました。機械も何から用意すれば良いかわからず、ご近所の方から中古の小型トラクターをいただきながら、かなり広い面積を一日中耕していました。田んぼも、誰も作らなくなった場所をお借りして、自分たちでゼロベースで耕していきました。
そんな紆余曲折があって、ようやく農園をオープンすることができました。メイン作物のひとつが、糖度平均18度以上のメロンより甘いトウモロコシで、暑さで甘さが落ちないように朝4時から収穫しています。他にもコシヒカリと地場品種・天竜乙女という2種類のお米、そして市田柿という干し柿を作っています。
地域活動では消防団に入るなど、地域コミュニティのイベントにはまめに参加したりしています。2023年には新しい家族が増え、2021年が宿、2022年が農業、2023年が子供と、毎年環境が変わって楽しい限りです。
宿泊業をローカルでも成功させるポイントとは?
中島:農業だけをやっていたら、農作物だけの販売しかできないので、低い単価になりがちです。しかし、農業と宿泊業と掛け合わせることで、付加価値化が可能となり、通常よりも高い単価で販売することができるという相乗効果があります。
谷口:事業性という意味では、ある程度単価を取ることを大事にされている方は比較的成功しているイメージがあります。ローカルという意味では、何をコンテンツにするか。地域の日常やAirbnbではホストの人柄や気配りは価値になりやすく、単価を上げることにもつながる。単価の違いで客層は変わり、単価を意識すると良いお客さんともマッチングしやすくなります。
建物だけでは簡単に真似されるので、ホストの個性や地域性、気候など、どんどん組み合わさることで唯一無二のものになると思います。ローカルでの価値は体験にあるので、ちょっとした体験も含めてその全てを価値に変えていける宿は成功されているかなと。例えば、インバウンドの方は、地域独自の価値を求めてこられますが、言葉や生活習慣など文化の違いすら価値に変わります。
中島:ここに来るインバウンドの方は、特定の観光資源を目指して来られるわけではなく、のどかな環境や古民家の独自性を求めてこられますね。
草刈り、自治会、ご近所さんを宿に招待…。地域からの信用を得るために
あとは、地域に積極的に顔を出すことで自分を認識してもらうこともすごく大事だと思います。
「あの人は宿をやってるみたいだよ。農業もしっかりやっているから大丈夫そうだね」と安心される。
吉澤:先ほど、中島さんから地域の方にDIYや耕作などを、手伝ってもらったという話が出てきましたが、ご自身で頼みにいかれたのですか?
中島:いえ。移住者イベントに誘ってもらい、その場で、「宿をやるんですよ」というと「こういう人を知っているから紹介しようか?」と、人づてに繋いでもらったんです。 前回の曽根原さんとの対談でも、偶発と必然という話がありましたが、後から人とのつながりができていった感じです。
谷口:面白い人は面白い人を呼ぶというのはありますよね。中島さんの取り組みの中で面白いと思ったのが、オープンする前に試泊体験を近所の方に提供されていたことです。
中島:この場所は住宅が建ち並ぶエリアなので、ご近所の方に宿の中に入ってもらって安心してもらいたかったんです。 私は飯田市出身ではあるものの、今いる地域の方との面識はほとんどありませんでした。移住してすぐ、このエリアの公民館で行われた「農村起業家育成スクール」に参加した時、自治会長さんに出会いました。ここで宿をやると伝えたらすごく喜んでくれて、私を連れて近所を一周してくれ、「この人がこういうことをやりたいといってる、頼むな」と紹介してくれたんです。どなたか地域を良く知っている方と面識を持って、紹介してもらうとすごくスムーズだと思います。
湯澤:移住相談でもそうなのですが、移住希望者を直接地域の方に紹介した方が、その人の満足度はめちゃくちゃ高い。僕もそうなんですが、Airbnbの宿に泊まったら、ホストさんが色々な飲み屋さんに連れていってくれて自分の友達として紹介してもらった方が嬉しいし、また行きたくなります。
移住希望者でもそうですが、何度も来訪してくれる方は、そういうキーパーソンに出会っていると思います。
谷口:私も最初に湯澤さんに天龍峡エリアを案内してもらいました。農家民泊も一軒一軒回りました。湯澤さんのようにマッチングしてくれる人が大事で、そういう方がいないところで0からやるのは時間がかかりますし、切り口を探すのも大変ですよね。
「お客さん」ではなく「仲間」として迎えてくれるコミュニティを探そう
谷口:我々のサービスが、インフラになることを目指しています。空き家は、今日本でとても大きな課題で、その中のソリューションのひとつが宿だと思っています。空き家と宿の相性はすごく良いので、広がってほしいと思うのですが、その時大事なのが、コミュニティです。
Airbnbとしては、空き家活用の活動もやっていますが、それと同時にコミュニティを作ることもやっています。それは我々にとっての地方での成長戦略ですね。あとは、ゲストは地域の暮らしを体験したい方が多く、あまり知られていないところであるほど、誰かに自慢できる嬉しさもある。
中島:私は、この宿を始める前に東日本を車で一周してきたんですよ。田舎道は景色があまり変わらないなか、帰りに山梨県側から長野県に入ってきた時に、両側に、3000m級の山がドーンって見えるのは日本でも伊那谷だけだなと思いました。
発信する上では、宿のことだけじゃなく、まわりの地域も含めた世界観や空気感が伝わればいいなと思っています。宿名に込めた想いもそうで、渡鳥の「燕」は旅行者のこと、「土」はこの土地、畑。最後、「と」で終わるのはここは最終目的地じゃなくてもよくて、地域や他のところにいってもいい、ハブになれればいいなと。
吉澤:「ここだ!」という場所に中島さんは、出会えたわけですが、ノリさんから見て、宿を開く場所を探す時に大事だと思うことはありますか?
谷口:難しいですね。アクセスは大事だとは思います。あとは、建物のユニークさ。要するに変えられないところは慎重に考えなければならない。あとはどうソフト面を作っていくか。
物件に出会うためには、地域に通ってみることですが、いきなりいっても全然仲良くなれないので、ボランティアとか移住相談会、エアビースクールもそうですが、お客さんのように扱われるより仲間になれる場所を探した方がいいですね。 通って地域の人とちょっと深く話すことを繰り返していけば、物件も見つかっていくのかなと思います。
吉澤:ネットで調べられる時代にはなったとは思うんですが、やっぱり調べても出てこないいい物件は、めちゃめちゃあるかなって思いますね。ありがとうございました。 次回のvol.4は現地開催となりまして、中島さんの宿を実際に訪れていただき、宿がどう作られているのか実感していただきたいと思っています。その他にも、vol.1で会場として利用させていただいた 「Cider Barn &more」さんにも訪れていただく予定です。2つのお宿に共通しているのは、独自の体験価値なので、興味を持った方はぜひお申込みいただければと思います。
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■プロフィール
Airbnb Japan株式会社 事業開発部部長
谷口紀泰(たにぐちのりやす)
大手ECサイトで国内事業を立ち上げ、海外事業戦略を担当。Directorとして東南アジアでECビジネスを牽引。その後、外資系OTAで日本へのインバウンド送客強化を推進し、観光庁や地方自治体とのプロジェクトで有識者委員も務める。2020年からはAirbnbに入社し、事業開発部で自治体や外部企業との連携を担当。
燕と土と オーナー
中島綾平(なかじまりょうへい)
高校卒業後名古屋に暮らし、その後関東へ。飲食業のほか、5年間にわたるホテルマネジメントの経験を重ね、2021年に飯田市へUターン。「龍ノ穂ーリュウノスイー」の屋号で農業を営むほか、2022年一棟貸しの古民家宿「燕と土と」をオープン。
飯田市結いターン移住定住推進課係長
湯澤英俊(ゆざわひでとし)
大学卒業後、メーカー勤務を経て飯田市役所に入庁。企業誘致や大学連携、シティブランディングなどの業務に従事し現職。人と人、人と地域の結び目となり、仕事や住まい、暮らしなどのあらゆる相談に対して、お互いの価値観を認め合う場や役割を担い合う機会を提供することで、自分がそこにいて良いんだという肯定感や「帰ってきた」と思える居場所づくりに取り組み、移住定住の推進や関係人口の創出につなげている。 趣味は「熱すること(焼肉)」と「燻すこと(燻製)」。
東海旅客鉄道株式会社 conomichiプロデューサー
吉澤克哉(よしざわかつや)
2016年に入社後、JR東海MARKETの立ち上げ等に従事し、名古屋の行列スイーツ「ぴよりん」の無人受取サービス等、多数のプロジェクトを担当。2023年には、若手3人の有志で立ち上げたワーキンググループから「conomichi(コノミチ)」を事業責任者として立ち上げ。心惹かれるストーリーで地域と訪れる人をつなぎあわせ、沿線地域に関わる人を生み出すことを目指している。
conomichiでは
【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。
訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。
今まで知らなかった場所へ出かけて、その地域の風土や歴史・文化にふれ、その地域の人々と共に何かを生み出すこと。そこには好奇心を満たしてくれる体験があふれています。
地域で頑張るプレイヤーの、一風変わったコンテンツの数々。
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