
人の癒しと自然の再生が調和する。「物語の宝庫」伊吹山で探る、人と森のちょうどいい関わり方【Vol.1特別公開Sessionレポート】
- 日 程
- 8/21
- 場 所
- 滋賀県米原市
- 主 催
- 米原市シティセールス課
滋賀県米原市を舞台に「自然との関わり」から自分のこれからの生き方を学ぶプログラム「里山LIFEアカデミー in 伊吹山」。 2年目のキックオフイベントには、オンラインセミナーに約200名以上が申し込み。伊吹山の麓の会場にも、他府県から熱意ある参加者が集まりました。
伊吹山は、地球温暖化やニホンジカの食害による裸地化といった課題を抱える一方で、歴史や豊かな植生、薬草、地域文化など、多彩な可能性に満ちています。今回のセッションでは、地元で保全活動に取り組む人、森の資源を新しい産業へとつなげる人、リジェネラティブな旅を発信する人、それぞれの視点で伊吹山を「再読」。食を通じて森の未利用資源を価値化していく可能性や、環境保全に取り組みながら自分も癒やされる「リジェネラティブツーリズム」との親和性など、ゲストならではの視点から、人と自然、都市と里山の新しい「関わりしろ」を探る時間となりました。
INDEX
- 伊吹山の魅力と課題を語らい、保全再生の仲間を広げる
- 森を「薬草」で価値化し、森を守る
- 訪れることで地域がより豊かに再生する「リジェネラティブ」な旅を編集
- 伊吹山の持つ「資源」と「課題」を外にひらき、新たな価値を共創する
- 動植物、食、神話…伊吹山はコンテンツの宝庫。入り口はあなたの「好き」でいい

左からconomichiプロデューサーの吉澤克哉、「ユウスゲと貴重植物を守り育てる会」ならびに「霊峰伊吹 山の会」代表の高橋滝治郎さん、「日本草木研究所」主宰の古谷知華さん、「ハーチ株式会社 Livhub(リブハブ)編集部」の石塚和人さん。

イベント本番を前に、高橋さんのガイドのもと伊吹山山頂を訪れました。山頂の花を楽しみ、鹿から植物を守る金属柵や裸地化した南斜面を目の当たりにし、伊吹山の現状と課題を体感。照りつける日差しの中、汗を流しながら歩き、それぞれに伊吹山を感じ、いよいよ本番を迎えました。
伊吹山の魅力と課題を語らい、保全再生の仲間を広げる
本日は、それぞれの分野で活躍されている3人のゲストをお迎えし、伊吹山の麓からこれからの豊かさのヒントを探す特別な時間にしていければと考えています。それでは、高橋さんからお一人ずつ自己紹介をお願いします。

「ユウスゲと貴重植物を守り育てる会」と「霊峰伊吹 山の会」代表の髙橋滝治郎さん
ただ、近年では鹿の食害が深刻で、山肌が見えてしまうほど裸地化が進んでしまっています。そこで、毎月観察会を開催していて、多くの方に見てもらいながら、魅力と課題をお伝えする活動をしています。また、資生堂さんや平和堂さんなど企業さんの支援もいただきながら、山の三合目付近に金属柵を作って鹿の食害を防いだり、子どもたちと一緒に植物の再生活動にも取り組んでいます。その他にも、ススキの仲間である苅安を使った草木染めや、登山道の補修なども行い、山の植生の保全や登山道の修復など伊吹山の再生全体に関わる活動をしています。

懸命な保全活動のおかげで、7月下旬に見ごろを迎えるユウスゲの群生。「ユウスゲと貴重植物を守り育てる会」の観察会で楽しむことができます。
森を「薬草」で価値化し、森を守る

「日本草木研究所」主宰の古谷知華さん
そこで注目しているのが、在来のスパイスやハーブです。少量でも高付加価値があり、日本の森にはコショウやピンクカルダモン、シナモンなど、世界市場でも十分通用する素材が眠っているんです。2021年に「日本草木研究所」を立ち上げ、いまでは北海道から沖縄まで25地域以上の若手林業者と連携し、それぞれの土地で在来のスパイスやハーブを生産していただいています。
森の素材をスパイスとして活用すれば、林業に比べてはるかに高い価値を生むことができます。杉は60年育てても丸太1本5000円ですが、山椒は1キロ7000円以上。実際に副業で収入が20%アップした方や、50万円の売上につながった方もいます。買ってくださるのは有名レストランや一流ホテルが多いですが、今後はメーカーへも広げ、日本のスパイスを広めたいと考えています。
たとえばクラフトジンに欠かせないジュニパーベリー。日本にも在来種があり、もし輸入を国産に切り替えれば、それだけで年間15億円が山に還元される可能性があります。今、世界的には「ローカルこそがラグジュアリー」という流れがあります。だからこそ、日本の森からスパイスを発信することは、企業にとっても付加価値になっていくと思うんです。私たちは『植林からスパイス栽培へ』。スパイス栽培そのものが新しい植林となるような、新しい林業の常識を作っていきたいと思っています。
訪れることで地域がより豊かに再生する「リジェネラティブ」な旅を編集

石塚:Harch(ハーチ)株式会社で編集者・ライターをしています。特に、サステナブルな旅を発信する「Livhub(リブハブ)」を担当してきました。「サステナブル」という言葉は、「やらなきゃいけないこと」という窮屈なイメージで捉えられがちですが、僕が大切にしているのは「楽しくて、手触り感のあるサステナブル」。旅を通じて、地域の文化や自然、未来や過去を考え、自然や資源の循環を考慮しながら、お金だけではない「心」の豊かさを感じる。これがいわゆる「サスティナブルツーリズム」です。
最近は「リジェネラティブツーリズム」という言葉も出てきました。「リジェネラティブ」は「再生する」「繰り返し生み出す」という意味で、観光と組み合わせると「訪れることで自然や地域がより豊かになっていくような観光」を意味します。ちょっと言いにくい言葉なんですが(笑)。
Livhubの具体的なツアー事例を紹介すると、三重県の伊勢志摩での取り組みがあります。真珠養殖で有名な地域ですが、100年以上続く中で養殖ネットが廃棄されているという課題がありました。そこで旅人や漁業者、旅館、住民が一緒に「どうすればいいか」を考えるワークショップを開き、実際に道具を分解・リサイクルしました。こうした活動を3年間続けた結果、今では「漁具から漁具へ」という水平リサイクルが実現し、環境に負担をかけない循環が地域に根づきつつあります。
そのほか広島では、地域の人たちと一緒に登山道を整備し、山頂で絶景を眺めながらお茶会を楽しむツアーを企画。岡山では牡蠣を通して自然の恵みの循環を体験するツアーを準備しています。どれも「リジェネラティブな旅」です。
伊吹山の持つ「資源」と「課題」を外にひらき、新たな価値を共創する
古谷:日本で「薬草」といえば奈良の「宇陀」そして「伊吹山」というくらい真っ先に想起されるような場所ですから、もっと薬草やハーブを活かしたコンテンツがあってもいいなと。そして、ハーブティーとして売るよりも、ハーブを摘むとか、香りを楽しむとか、体験と組み合わせたツアーがあればおもしろいと思います。また、オーベルジュのような食と宿泊を組み合わせた施設とつなげてもいい。伊吹山はギャルも登っているくらい日常との距離感が近い場所。あんな風に若い人が集まる山なんて他にはないので、関心を広げるチャンスがあると感じます。

「これ美味しそう!」 古谷さんの視点で見ると、伊吹山は美味しそうなものがいっぱい。

吉澤: 「開く」という取り組みについて、高橋さんは伊吹山の三合目で観察会をしたり、イブキジャコウソウを学校で育ててもらったりという活動をしておられますが、地元の方の意識や考え方に変化はありましたか?
髙橋:そうですね。昔は伊吹山と人の暮らしはとても近くて、山から草を取って肥料や飼料に使ったり、仏様に供える花を摘んだり、直接的に恵みを受けていました。でもライフスタイルが変わり、山は「遠い存在」になって、関心も薄れてきています。だからこそ、もう一度山に目を向け、関わりを深めていく必要があると感じています。
その一つが子どもたちです。これからの時代を担う子どもたちに魅力も課題も伝え、原因や背景を考えてもらう。学校でも授業を行い、なぜこうなったのか、自分たちに何ができるのかを一緒に考えてもらっています。子どもが家庭に持ち帰り、家族に話すことで広がっていく。観察会でも、花を説明するだけでなく「なぜこうなったのか」「自分ならどうするか」を一緒に考えてもらう。そういう形で少しずつ地域内外へと関心が広がってきていると感じます。

動植物、食、神話…伊吹山はコンテンツの宝庫。入り口はあなたの「好き」でいい
石塚:伊吹山はストーリーの宝庫なんですよね。たとえば神話ではヤマトタケルの話もあるし、薬草や苅安(※)といった歴史的な素材もある。そうした要素を文化的な切り口で整理すれば、民族学や市民科学のフィールドにもなり得るし、海外の事例ですがツアーに「市民調査」というのを含めて人気のものもあります。「調査」を伊吹山との「関わりしろ」にするのもおもしろいかもしれません。
また薬草もすごく魅力的です。環境保全やリジェネレーションって、環境を直しているつもりが、実は自分自身も内面的に癒やされている—という部分があります。薬草との相性もよく、コンセプトが可視化しやすくなりますし、そういう伝え方もおもしろいかなと思います。
(※苅安…イネ科の植物で古代から黄色染料として使われ、奈良時代の「正倉院文書」にも記載があるほど。)
古谷:「自然と共生しましょう」って言われても、正直すごく難しいと思うんです。だって「好き」にならないと、共生したいなんて思えないですよね。入口はやっぱり「好き」になること。自然が好きだから失いたくない、大事にしたい、可愛いから守りたい— そういう気持ちが始まりだと思います。私自身も最初から「森を守りたい」なんて思ってなくて、「森に美味しいものがあるかも」って食欲で入っただけ(笑)。でもそこから森が好きになって、「なくなったら悲しい」って思うようになったんです。

髙橋:やっぱり「楽しみから入る」のはとても大事だと思います。伊吹山は四季折々の花や美しい展望があり、昆虫や野鳥、イヌワシまで見られる、本当に魅力の多いフィールドです。まずはそうした魅力を楽しんでもらい、同時に現場を見て課題にも気づいてほしい。そして「なぜこうなったのか」「自分たちにできることは何か」を考えてもらえればと思います。
私たち受け入れる側も、ガイドの育成や仕組みづくりなどまだ不十分な点がありますが、伊吹山は「楽しみ、学び、考える」にふさわしい場だと感じています。ぜひ皆さんにも足を運んで体験していただきたいです。本日はありがとうございました。
特に、「環境を直しているつもりが、実は自分自身も内面的に癒やされている」という言葉が印象的でした。都市に暮らしていても、山の再生は私たちの暮らしに直結しています。けれども、忙しさの中で「自然に生かされていること」を忘れてしまいがちです。「自然の豊かさ」と「自分にとっての豊かさ」はどうつながっていくのか― その「関わりしろ」を、伊吹山を通して探してみませんか。

伊吹山山頂のサラシナショウマ群落。8月中旬から9月初旬、白い穂がそよそよと風に揺れながら、斜面いっぱいに広がる。
プロフィールを見る
伊吹山に見守られ生まれ育って66年。幼少期から裏山の伊吹山でスキー三昧。全国の山々を登山する中でふるさとの伊吹山の素晴らしさを再認識し、近年は伊吹山中腹の三合目や山頂でニホンジカの食害から貴重な植生を守る獣害防止柵設置などの保全活動やガイド、また登山道補修を仲間とともに取り組む。
伊吹山の魅力と地球温暖化の影響等による生態系の深刻な現状を子どもたちなど多くの人たちに伝え考えてもらう活動をしている。
プロフィールを見る
ハーチ株式会社が運営する、サステナブルツーリズムで世界をつなぐ旅マガジン「Livhub」の企画・編集・ライティングを担当。
サステナブルツーリズム国際基準に準拠したトレーニングプログラム「the GSTC Professional Certificate in Sustainable Tourism」修了。環境再生医資格保有。神奈川と長野で二拠点居住の実験中。趣味は低山登山と家庭菜園。
プロフィールを見る
東京大学工学部建築学科を卒業後、広告代理店でのブランディング業務を経て独立。調香やハーブ・スパイスに関する知識を活かし「ともコーラ」を2018年に開発,クラフトコーラの生みの親としてヒット商品に。2021年からは日本の植生に注目し、山に自生する”在来ハーブ&スパイス”のプラットホーム「日本草木研究所」を立ち上げ、林業従事者達と食の切り口から日本の山林資源を高付加価値化する。
conomichiでは
【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。
訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。
今まで知らなかった場所へ出かけて、その地域の風土や歴史・文化にふれ、その地域の人々と共に何かを生み出すこと。そこには好奇心を満たしてくれる体験があふれています。
地域で頑張るプレイヤーの、一風変わったコンテンツの数々。
まずは気軽に参加してみませんか?
このページを見た方に
おすすめの取り組みレポート
-

REPORT
再読と活用から生まれる現代における宿場町の価値とは?第1回「Local Research Lab」開催レポート
岐阜県中津川市2026/04/10 更新 -

REPORT
さかさマルシェ@大府駅
愛知県大府市2026/03/17 更新 -

REPORT
地域と出会い、地域に貢献する。デジタルアートをその証とするためのアーティストによるフィールドワークレポート
静岡県2026/03/05 更新 -

REPORT
オンラインでの学びを経て、伊吹山との関わりを探る旅へ――霧の中から始まるフィールドワークで私たちが得たもの【Vol2・10月25日、26日FW】
滋賀県米原市米原市シティセールス課2026/03/05 更新 -

REPORT
「当たり前」の再定義からはじめる、新市場開拓の実践論 【I-OPEN Central GIFU Session】開催レポート
岐阜県中部経済産業局 共催:岐阜県2026/02/20 更新 -

REPORT
会社の未来を“編集”するブランド戦略【I-OPEN Central TOYAMA Session】開催レポート
富山県中部経済産業局 共催:富山県2026/03/05 更新 -

REPORT
自社の“当たり前”を再定義するブランド戦略【I-OPEN Central MIE Session】開催レポート
三重県中部経済産業局 共催:三重県2026/03/05 更新 -

REPORT
工場はどこまで“メディア”になれるのか?―ブランドを表現する体験デザインの実践論― 【I-OPEN Central ISHIKAWA Session】開催レポート
石川県中部経済産業局 共催:石川県2026/01/30 更新 -

REPORT
技術は継ぐ、常識は超える。―クローズかオープンか?価値の再読から始める新規事業戦略― 【I-OPEN Central AICHI Session】開催レポート
愛知県中部経済産業局2026/01/30 更新
このページを見た方に
おすすめのイベント
-

2026/05/29
【ラボメンバー募集】Local Research Lab 中津川 -地域デザインプログラム-
岐阜県中津川市主催:中津川市 / 企画・運営:JR東海エージェンシー / 協力:KESIKI参加費 15,000円~40,000円2026/04/24 更新 -

2026/03/29
花咲く暮らしラボワークショップ
伊良湖菜の花ガーデン愛知県田原市参加費 一部有料2026/03/30 更新 -

2026/03/29
親が遊べば、子は育つ。 -渥美半島で見つける、教室では教わらない「生きる力」-
田原市文化会館 203会議室愛知県田原市参加費 無料2026/03/30 更新 -

2026/03/29
伊那谷リジェネラティブ会議|能動的な再生の火種を灯す
長野県飯田市飯田市 結いターン移住定住推進課参加費 20002026/03/30 更新 -

2026/03/29
Local Research Lab in 焼津 成果報告会
POTLUCK YAESU(東京ミッドタウン八重洲 5F)静岡県焼津市参加費 20002026/03/30 更新 -

2026/03/29
NAKATSUGAWA FUTURE DESIGN 2026
岐阜県中津川市参加費 02026/03/30 更新 -

2026/03/29
TechGALA新幹線で名古屋へ行かないと! 【東京発 名古屋行】
愛知県参加費 12,0002026/03/30 更新 -

2026/03/29
【満席となりました】Tamaki Community Lab2025 ~玉城町産の新米でおむすびを作ろう!~
三重テラス(東京都・日本橋)玉城町・玉城町観光協会(事務局:JR東海エージェンシー)参加費 0(無料)2026/03/30 更新 -

2026/03/29
【ゼミメンバー募集】DEJIMA Lab 伊那谷リジェネラティブゼミ
長野県伊那谷エリア主催:JR東海エージェンシー / 共催:伊那谷財団参加費 55,000円~2026/03/30 更新
このページを見た方に
おすすめのインタビュー
-

土の人と風の人が共に宿場町の価値を再読する。
「コ・リサーチプロジェクト」が目指すものLocal Research Lab 中津川岐阜県中津川市
-

地域のユニークを、ユーモアに。— アーティスト・おぐまこうきさんが語る「地域の魅力」と「作品への思い」
おぐまこうき静岡県浜松市水窪 三重県尾鷲市
-

自分の中に「出島」をつくる。伊那谷で再生する、あなたの好奇心
DEJIMA Lab長野県伊那谷エリア
-

地域住民とデジタル住民の協働でつくる新たな観光の姿
ねやねや天龍峡デジタル住民部長野県飯田市
-

地域に眠る資源を「価値」に。南信州で“食”を軸に地域を駆け回る折山さんが思い描く「誰もが安心できる場」とは?
折山尚美 ー合同会社nom 代表社員ー長野県飯田市
-

古民家との出会いから「農」×「宿泊」のマルチワークを生業に。無理なくつづくローカル起業論
中島綾平 一棟貸しの宿「燕と土と」オーナー長野県飯田市
-

地域住民と移住者によるプロジェクトで想いをカタチに
Cafe Lumière(カフェ・ルミエ)JR近江長岡駅
-

ヒト×モノ×地域のマッチングで飯田駅に笑顔を「よっしーのお芋屋さん。」
よっしー-「よっしーのお芋屋さん。」長野県飯田市
-

メンマ、竹炭、豚の飼料…。竹ビジネスを仕掛ける元船頭が語る「水の循環を守るために竹林整備」の深い理由
曽根原宗夫-NPO法人いなだに竹Links 代表理事、純国産メンマプロジェクト代表長野県飯田市
