さかさま不動産との連携事業の一環として企画された「さかさマルシェ」は、 店舗やアトリエなど活動の 拠点を探す人がマルシェに出店して、それぞれの事業内容や挑戦したい想いを発信し、まちにある空き家の所有者や出店者を応援したい人たちとの、リアルな出会いとコミュニケーションの場を創り出そうというものです。

さかさマルシェ看板と会場の様子
大府駅前で開催された「さかさマルシェ」の会場風景

実証実験の舞台、大府市と「スタまち」

2024年11月に、まずは実証実験として岐阜県多治見市のJR多治見駅前広場で初開催。続いてこの度、愛知県大府市との連携により、JR大府駅前の広場を会場に「さかさマルシェ@大府駅前」が開かれました。きっかけとなったのは、愛知県内の各市町村が抱えるさまざまな課題をスタートアップ事業者と組み合わせることによって解決を目指す、 県の事業 「スタまち」。

スタまちとは

愛知県では「あいちビジョン2030」に基づき、地域特性に応じたスマートなまちづくりを推進。全国・世界に先駆けた技術・サービスの社会実装を目指しています。

本プログラムでは、自治体とスタートアップが一体となって、県内自治体が抱えるまちづくりに関する多様な地域課題の解決につながる新たな技術・サービスの社会実装を目指した実証実験を実施します。

スタまちの共創スキーム図

自治体とスタートアップが一体となる共創スキーム
※「スタまち」HPより抜粋

この事業に、駅前の多目的スペース「憩いの場」を活用した駅前エリアの活性化を課題とする大府市が応募。不動産所有者と物件の借り手との間で顔の見える関係を作り、互いの相性を大切にしたマッチングを目指す「さかさま不動産」の仕組みが、課題の解決に繋がることを期待してのコラボとなりました。

JR大府駅外観
まちの玄関口であるJR大府駅

明治期に東海道本線の開通によって発展した大府市。名古屋まで新快速でおよそ15分というアクセスの良さに加え、近年では子育て世代に優しく暮らしやすいまちとしても注目されています。しかし人口、世帯数ともに年々増加する一方で、駅前の活性化が目下の課題に。今回の「さかさマルシェ」の開催をはずみに、地域のみなさんに駅とその周辺の価値を再認識してもらい、市内にある空き物件の活用促進と駅前の賑わい創出を目指します。

「空き家を放置しておくより誰かに貸して使ってもらう方がいいのではと考えがちですが、所有者さんとしては貸す相手が誰でもいいというわけではないようです。そういった理由からあまり情報を出したくないというのが本音で、空き家問題の大きな要因にもなっているとも聞きました。さかさま不動産はそこにあるニーズに着目し、大家さんと借り手が互いにメリットを感じられるサービスにしたというところが新しく、非常に面白いと思いました。マルシェが市の課題解決に繋がることを期待しています」

— 「スタまち」を担当する
愛知県 都市・交通局総務課
課長補佐 安田龍さん

挑戦する出店者たちの「リアルな出会い」

県の事業「スタまち」をきっかけに、2025年12月から2026年3月までの期間、月に一度のペースで計4回実施された「さかさマルシェ@大府駅前」。そのうち3回目となる2月21日の模様をレポートします。

例年ならばまだまだ寒さが残る時期ですが、一足早く本格的な春がやってきたかのようなポカポカ 陽気に恵まれたこの日はまさに絶好のマルシェ日和。

メインの会場となったJR大府駅東口憩いの場では、朝 10時のスタートに向け、多彩な出店者さんたちが準備を進めていました。スタートを待ちかねて早々と会場を訪れるお客さんの姿もちらほら。

マルシェ会場での談笑風景
オープン前から活気に包まれるマルシェ会場

ちなみに今回、応募があったのは76名で、うち43名が物件を探しながらの出店を希望しており、そのほぼ半数の人が大府エリアでの出店・開業を視野に入れているとのこと。各ブース前にはそれぞれの「やりたいこと」と「やりたい理由」を書いたパネルを掲げ、来場者に想いをアピールします。

やりたいことパネル
各ブースに掲げられた「やりたいこと」パネル

不動産や創業に関する相談窓口を兼ねた運営ブースでは、マルシェで使用できるクーポンを配布し、来場者に「さかさま不動産」と「さかさマルシェ」の趣旨を説明。このマルシェの最大の目標である、挑戦したい人と不動産オーナーとの自然な出会いをサポート。

さかさま不動産運営ブース
来場者に趣旨を説明する運営・相談ブース

さかさマルシェのもう一つの特徴は、マルシェイベントへの出店自体が初めてという人が多く出店しているところ。
挑戦する人の第一歩を応援する温かな雰囲気も大きな魅力になっています。

ヴィンテージ革製品「OLD BOY」:マルシェ初出店

「今はイベント出店のみで頑張っています。いずれは店舗を持ちたいですね。自分の家に友だちを呼ぶようなイメージの場を作って、お客さんとのコミュニケーションから新しい作品のアイデアが生まれるといいなと思っています。人と人との関係性を大事にするさかさま不動産の仕組みは僕らにとってすごくありがたいですね!」

— 「OLD BOY」吉川和宏さん
OLD BOY 吉川和宏さん
 お客さんと対話する「OLD BOY」の吉川さん

OLD BOYの革製品

 吉川さんが手掛ける
こだわりのヴィンテージ革製品

焼き菓子「おくる」:マルシェ初出店

「マルシェへの出店はずっと夢でしたが、初めてで右も左もわからず不安もありました。さかさマルシェはそんな人を応援してくれるイベントだと聞いて、ぜひ出たい!と思いました。実際にやってみるとすごく楽しいです!こうして一歩を踏み出すことで人と人との繋がりが生まれたり、いろいろなことが一気に動き出す実感があります」

— 「おくる」太田凛さん
おくる 太田凛さん
 焼き菓子を丁寧に手渡す「おくる」の太田さん

「OLD BOY」の吉川さんや「おくる」の太田さんのように、大府でのマルシェへの出店を募集する広告で「さかさま不動産」の取り組みを知ったという出店者さんが多い中、編み物作家のneneさんのケースはちょっと独特。なんと、さかさま不動産のマッチング事案第一号でもある名古屋市の書店「 TOUTEN BOOKSTORE 」の店主、古賀詩穂子さんとの出会いがきっかけだったのだとか。

「すごく素敵なお店だなと思って何度も通っていました。その頃から漠然と、自分もいつかお店が持てたらいいなという思いがあって、でもどうやって物件探しをしたらいいかわからなかったんです。せっかくなら自分の好きなお店の人に聞いてみようとドキドキしながら古賀さんに話しかけてみました。そこでさかさま不動産のことを教えていただき、今回のマルシェにも出店させていただくことができました。古賀さんにはとても感謝しています」

— neneさん

普段は名古屋を中心に活動しているというneneさん。今回、お客さんとして立ち寄ってくれた大府市出身の大学生から「おばあちゃんの住んでいた家が空き家になっているのでアトリエに使ってもらえたら…」というお話も舞い込みました。

「大府市にはこれまで来たことがなかったけど、今後はこのまちも視野に入れて物件を探してみようと思います!」

— neneさん
編み物作家neneさんのブース
カラフルな作品が並ぶ
編み物作家neneさんのブース

アメリカンBBQ「YumaboysBBQ」

ランチタイムになると飲食系ブースに行列ができはじめました。アメリカンBBQ「YumaboysBBQ」の店主の坪井さんも「さかさマルシェ」にはこの日が初出店です。

「もともと人に料理を振る舞うのが好きで会社員を辞めてBBQで独立しました。まだ実店舗はないですが、いつかお店を持とうと考えています。理想は名古屋の中心ですが、すごく煙が出るので難しいでしょうね。このスタイルでやらせてもらえるところなら特にこだわりはありません。理解のある大家さんと出会えたらいいですね」

— YumaboysBBQ 坪井佑磨さん
YumaboysBBQの店舗
 食欲をそそる香りが漂うYumaboysBBQの店舗

発酵スパイスカレーと糀甘酒「Spíosraí」

知多の名酒の酒粕を使った発酵カレーを提供する「 シュピースリー」さんも、早々と完売の模様。

「今日は20食しか用意していなかったのもありますが、おかげさまで完売です!普段はキッチンカーでイベントに出ていますが、実は場所を探すのも大変だし、お客さんともコミュニケーションがしづらいのでやっぱりお店があるといいなと思います。僕はエリアよりも建物そのものにこだわりたいですね。和風のカレーなので昭和の佇まいが残る店構えに憧れます」

— 発酵スパイスカレーと糀甘酒
「 Spíosraí 」シュピースリーさん

シュピースリーさんのブース前

完売後も会話が弾むシュピースリーさん

まちを支える人々、そしてこれからの展開

会場には、1回目の開催から毎回さかさマルシェを訪れているという大府市の市議会議員さんの姿も。

「 初めは会場の前を通る人の多くが、『何やってるのかな?』みたいな反応でしたが、3回目ともなるとすっかり周知されてきましたね。出店者さんもリラックスしていい雰囲気。大府は便利で住みやすいまちとして人気があり、人口も増えています。もともと住んでいる地元の人は、他所からいらした人に対して最初は少し人見知りをしてしまうようなところがあるかもしれませんが、一旦仲良くなれば本当はウェルカム。このまちで何かに挑戦したいということであればきっと力になってくれると思いますよ!」

— 大府市議会議員 時安りえさん

時安りえさん

運営メンバーと談笑する
大府市議会議員の時安りえさん

駅前で代々飲食店を営んでいる加藤さんにもお話をうかがうことができました。ボランティアで地域の活動を支え、夏祭りなどのイベントも企画。大府駅前エリアの活性化に尽力するこのまちのキーマンの一人です。

「マルシェにはイコール商売というイメージしかありませんでしたが、こうした趣旨は思いつきませんでした。とてもいいですね。大府駅前がもっとも賑わっていたのは昭和50年代ごろのこと。今では大きく様子が変わってしまいました。父や祖父の代の人たちが作り上げてきた大府のまちで育った僕ら世代の責任として、再び活気を取り戻して次の世代に受け渡したい。今後もこうした取り組みに協力できればと思っています」

— 株式会社みかど 
代表取締役社長 加藤大雅さん

運営ブースには、さかさま不動産の仕組みについて関心を寄せる人たちが相談に訪れていました。常滑市から訪れたという男性の相談内容は、地元の空き家の活用について。

常滑市で古民家を買って数年前から暮らしているというこの男性は、家の周りに残る古い長屋の活用法をリサーチする中でさかさま不動産のことを知ったそうです。

「その長屋はいわゆる2項道路(幅員4m未満の狭い道路)の奥にあるため、壊して建て直すといった工事ができず長年放置されています。解決するには、これまで建物の所有者と行政との間で個別に話し合うしか手段がなかったんですが、さかさま不動産のようにインスタグラムやLINEといった新しいインターフェイスを使いこなせる人たちが生み出すサービスを使えば、もっとスムーズに解決できるのではと期待してマルシェに足を運んでみました」

— 来場者 男性

さかさま不動産の支店制度にも関心を寄せ、今後は常滑での展開を考えてみたいと話してくれました。

相談ブースの様子
空き家活用について真剣に相談する来場者

ハンドドリップコーヒー「NIM」

そんな運営ブースのすぐ隣で、淹れたてのコーヒーの香りを一日中漂わせていたハンドドリップコーヒーの「NIM」。常に大人気でお客さんの切れ間がないほどの盛況ぶりでした。店主の新美さんはマルシェ出店の募集を見てさかさま不動産の仕組みを知り初参加。駅の近くで理髪店を営む方がお客さんとしてふらりと訪れ、偶然の出会いから思いがけないお話が舞い込んだそうです。

「理髪店のお客さんの中にはコーヒー好きな人が多いらしく、待ち時間にコーヒーを出せたらいいよね、とおっしゃっていました。実は僕も、待ち時間とコーヒーって相性がいいなと思っていたんです。その方は、理髪店の敷地の一角を利用して営業してくれる人を探している、とのことだったので、面白そうですね、ぜひ!ってお返事しました。さかさマルシェのコンセプトって他では聞いたことがないし、めちゃめちゃ尖ってますよね。そもそも大家さんが来て出会うなんてこと、本当に起きるのか?と半信半疑でしたけど、〝うわ!本当に来るじゃん!〟て感じ(笑)。この後の理髪店のオーナーさんとの打ち合わせが楽しみです!」

— ハンドドリップコーヒー 
CoffeeRoaster NIM 新美信悟さん
NIMのブース
コーヒーの香りで人を惹きつける
「NIM」のブース

マルシェのコンセプトが少しずつまちに浸透していることを実感する、数々のエピソードが生まれた「さかさマルシェ@大府駅前」。大府市のみなさんも確かな手応えを実感しているようです。

「市が実施する市民アンケートでは、駅前に賑わいが欲しいという意見が多数寄せられています。しかしなかなか解決の糸口がつかめないのが実情で、多目的スペースをいかに有効に活用していくかが課題でした。この度On-Coさん(さかさま不動産)やJR東海さん( conomichi)との連携のおかげで意義のある取り組みがスタート。ここに来ると何かやってるぞという期待感が徐々に広がり、市民の方の意識も少しずつ動き始めていることを感じています」

— 大府市 産業振興部
商工業ウェルネスバレー推進部
担当課長 長坂勇幾さん

インタビューに応える長坂さん

手応えを語る大府市の長坂さん

「こうした取り組みの意義が認知されるためには、今後も継続していくことがポイントになると思います。県の助成を受けての開催は今年度末までとなりますが、その後もさかさま不動産やさかさマルシェのコンセプトの部分を大事にしながら継続できるよう、運営の仕方を調整しているところです。空き家が良い形で活用されていくことでまちの賑わいに繋げたいですね」

— 大府市 産業振興部
商工業ウェルネスバレー推進部
担当課長 半田貴之さん

打ち合わせ風景

大府市半田さんを交えた談笑の様子

「マルシェの来場者さんにヒアリングをしてみたところ、このイベントをきっかけに鉄道を利用し、まちを訪れてくださる方がけっこういらっしゃることがわかりました。駅に賑わいが生まれなければ鉄道の利用も増えませんし、まちの賑わいも生まれません。駅の活用といっても私たちだけの力ではなく、さかさま不動産のような新しいサービスとまちとがともに手を組むことの意味は大きいと思います。今後もこうした取り組みがいろいろな地域に広がることを期待しています」

— 東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部
conomichi 関根弦さん

「今回、県の事業をきっかけに、多治見市に続いて大府市でもさかさマルシェを実施することができました。僕たちとしては、まちが抱えるこうした課題にさかさマルシェの仕組みを使って貢献できればと思う一方で、コンセプトを理解してもらう難しさも感じています。その点、担当のお二人(大府市の半田さん、長坂さん)はすごくフランクでフットワークも軽く、僕たちのサービスの面白さをすぐ理解してくださって、スピーディに動いてくれました。これまでなかった新しいサービスだからこそ直感や勢いがとても大事だと思います。その点でもお互いの相性の良さを感じました」

— 株式会社On-Co
さかさま不動産プロジェクトマネージャー 
奥田啓太さん

出会いのインスピレーションと互いの相性の良さがマッチングにおける大事な条件。これはさかさま不動産が大事にしてきたコンセプトにも通じること。プロジェクトリーダーとして3回目の開催を無事終えた奥田さんはさらに、マルシェというリアルな出会いの場だからこそ感じたことがあると振り返ります。

奥田さんたちの話し合い

リアルな出会いの価値を語るOn-Coの奥田さん(右)

「ウェブサイト上にやりたい想いを掲載して大家さんにアピールをするさかさま不動産と、さかさマルシェの概念の部分はまったく同じです。でも物件を探す人と大家さんとがダイレクトに出会うことができるマルシェは、その人の想いがより伝わりやすくなるということがよくわかりました。僕ら自身も、当日までに出店者さんと何度かリモートで打ち合わせを行いますが、直接会ってみると想像以上に良い人だなぁと思うんですよね。そんなふうに大家さんに想いや魅力をリアルに伝えることができる場だと実感しています」

— 奥田さん

駅の持つ可能性をまちとともに探るプロジェクト「さかさマルシェ」は、今後もさまざまなエリアを舞台に広く展開していきたいと考えています。

駅のフロア広告

 JR大府駅構内に設置された
「大府さかさマルシェ」のフロア広告