
「当たり前」の再定義からはじめる、新市場開拓の実践論 【I-OPEN Central GIFU Session】開催レポート
- 日 程
- 9/24
- 場 所
- 岐阜県
- 主 催
- 中部経済産業局 共催:岐阜県
「うちの技術は、この業界でしか通用しない」
「長年やってきた、このやり方が一番だ」
そんな“当たり前”が、実はあなたの会社の未来を縛る「壁」になっていませんか?
今回のI-OPEN Central GIFU Sessionでは、東海地方を代表するものづくりの企業でありながら、その「当たり前」を大胆に再定義し、新たな成長の扉を開いた二人の実践者が登壇しました。
縮小する市場の危機から自社のコア技術「切る」を再定義し、農業という新分野へ進出。農家の課題解決に挑んだ「ぶどう巻つる処理機」を開発した、「ニッケンかみそり」常務取締役の熊田征純さん。
もう一方は、既存のコア技術を深化させ、電気自動車向けの世界初となるデバイスを開発しながらも、同時に、防災用品というまったくの異分野でB2C事業を成長させた、「生方製作所」代表取締役社長の生方眞之介さん。
トークセッションの前には、「刃物のまち」として知られる岐阜県関市で、70年以上にわたり「切る」技術を追求してきたニッケンかみそりのファクトリーツアーも実施されました。
長年培われてきた「当たり前」の技術が、新たな価値へと生まれ変わる瞬間を、五感で感じてからのトークセッション。本セッションでは、成功体験だけでなく、その裏にある無数の失敗談やリアルな戦略までを深掘りし、社内の「当たり前」を未来の事業へと転換した、二つの挑戦の物語を紐解きました。
INDEX
- 「アトツギ甲子園」にて縁ある二人
- 刃物業界初の電動工具「ぶどう巻つる処理機」
- 見えないところで人の命を守る「サイレントヒーロー」
- 「今は何とかなっても10年後も維持できるのか」
- 「あえて狙い撃ちをしない動き」がリターンに繋がる
- どうやったらみんなを巻き込んで、同じ方向に向いていけるのか
- 「努力を見せる」ことと「売り上げ」で、社内の流れが変わる
- ときに儲けや利益よりも伝わるのが「思い」
- 調子にのらず、紳士なふるまいで、そして楽しませる

「アトツギ甲子園」にて縁ある二人
吉澤:愛知、石川、富山、三重セッションを経て、本日はI-OPEN Centralのセッション最終回となる第5回目です。I-OPEN Centralは地域が抱える社会課題に焦点を当て、誰かの助けになりたい、社会をより良くしたい、そんな思いと創造力を起点に、個人、企業、自治体が立場や役割を超えて未来を切り拓く取り組みを支援する中部経済産業局のプロジェクトです。本日のセッションは、主催の中部経済産業局に加えて、JR東海のコノミチとアトツギスタートアップ共創コミュニティタキビコの共同開催となっております。

吉澤:本日のテーマは「“当たり前”の再定義からはじめる、新市場開拓の実践論」ということで、「ニッケンかみそり」常務取締役の熊田征純さんと「生方製作所」代表取締役社長の生方眞之介さんに登壇いただきます。
熊田:工場見学で盛り上がった勢いで、トークセッションも楽しんでやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
生方:今日をすごく楽しみにしていました。あまり真面目なのは得意でなくて、おちゃらけながら話がしたいなと思っています。ぜひ温かい目で見ていただければなと思います。お願いします。

吉澤:実はお二人は、何かご縁があるということで。
熊田:皆さん、アトツギ甲子園ってご存知ですか。中小企業庁が主催している39歳以下の事業承継予定者が出る大会で、家業をベースにした新規事業アイデアを競うピッチコンテストになっております。私、今年の1月に開催さ
れた東海地方の中部ブロックに参加させていただきまして、その際に審査員を務めていたのが……。
生方:僕でした(笑)。むちゃくちゃいい大会で、皆さんYouTubeがありますので、もしよければ見ていただきたいです。僕たちが選んだ3人が、決勝大会で全員入賞しました。
吉澤:控室でも盛り上がっていましたよね。それではまずは、インプットセッションということで、お二人から事業紹介をお願いできればと思っております。
刃物業界初の電動工具「ぶどう巻つる処理機」
熊田:改めましてニッケンかみそりの熊田といいます。生まれも育ちも岐阜県関市です。大学は大阪で、卒業後は工作機械メーカーに就職しました。入社3年目にシンガポール駐在という話が会社からありまして、父に相談したんですね。「海外で働けるチャンスなんてないから行って来い」「一部上場企業で部長まで目指せ」との言葉をもらい、決意して行った1週間後にその父が突然倒れてそのまま亡くなるということがありました。父に言われた最後の言葉を胸に、戻らないことを決意して、そこから十年ぐらいその会社に勤めるんですけれども、いろんな国に行っている間に、地場産業はやっぱり強いなというところにたどり着きました。地場産業といえば、まさに私の地元は刃物のまちです。自分が死ぬときに、たくさん儲けて金に困りませんでしたと言えることと、刃物をやるだけやりましたと言えるのと、どっちが後悔しないかなと考えたときに、やっぱり戻ろうと思って戻ったのが3年前です。

熊田:私どもの会社は祖父が創業した72年目の会社でして社名の通り、カミソリの生産販売がメイン事業になります。とはいえ、カミソリ市場は年々市場規模が縮小しています。そもそも人口が減少していることに加え、安価な医療脱毛、電動シェーバーの進化などによって、どんどん規模が縮小しているんです。新市場を開拓していかないと、我々のような規模の小さなところでは生き残っていけないという事情があります。そこで、一般的にカミソリと呼ばれる製品だけでなくて、ニッチな製品をリリースすることで何とか売り上げを維持してきたというのがこれまでの歴史。その中で一つだけ、毛色の違う商品があります。私の目の前にある、「ぶどう巻つる処理機」です。国産ぶどうは生食用、醸造用ともに人気が上昇しています。ただ、ぶどうの木の深刻な病気に晩腐病、黒とう病というものがあり、それによって品質が低下したり収穫量が減少したりして、本来得られるはずの収益を失っているという問題が発生していました。病気のリスクを下げるには、巻きつるを徹底的に除去する必要があると言われています。巻きつるを除去するだけで病気が防げるなら簡単じゃないかと思われるかもしれませんが、このつるが硬くて、とにかく量が多いので、剪定ばさみで一つ一つつるを除去していくのは握力勝負、体力勝負みたいな世界です。取る重要性を理解しているけれども取りきれず、結果、病気になってしまうという悪循環が発生していました。そこで、業界初の電動工具「ぶどう巻つる処理機」を作りました。

「ぶどう巻つる処理機」。手にしているのは参加者。
熊田:「ぶどう巻つる処理機」の特徴を三つに絞って申し上げますと、まず、おろしがね形状の回転刃ですりおろすことができること。二つ目が、カミソリでおなじみの替刃式を採用していますので切れ味が落ちても刃を変えていただくだけで切れ味を復活させられること。三つ目が、操作がシンプルで握るだけでできます、という点です。今まで手作業でやっていたのを電動化することによって、誰でも楽に速く除去でき、病害リスクを低減できるようになりました。約2年前に一般販売を開始し、国内で既に700台以上、売上が4,000万円に達しました。農家の方からは「もうこの機械なしの作業には戻れません」といった嬉しい声もいただいております。かみそり屋さんが農業に進出したら面白いという切り口で、冒頭でご紹介させていただいたアトツギ甲子園に参加させていただきまして、全国で3位になりました。
吉澤:カミソリとは見た目も全然違うように見えるので、本日その辺りの話もいろいろ教えていただければと思います。
見えないところで人の命を守る「サイレントヒーロー」
生方:生方製作所の生方です。まずいったん、「サイレントヒーロー」という言葉を覚えておいていただけると嬉しいです。僕は愛知県名古屋市で生まれまして、父親の仕事の都合で1歳のときにミシガン州に移住しました。日本の大学を出た後に「P&Gジャパン」という会社に入社しております。当時P&Gはカミソリ製品で世界的に知られるブランド「Gillette(ジレット)」を持っていて、カミソリにおいてジレットがいかに優秀かということを叩き込まれてきましたため、今日は不思議な出会いだなと思っています。30歳9ヶ月目ぐらいまでは一切家業を継ぐ気はありませんでしたが、結果的には生方製作所に31歳で入りまして、今、代表取締役としては3年目になります。

生方:生方製作所は、68年目の会社になります。売り上げはグループ全体で約101億円の会社になります。アメリカと中国に工場が二つあって、今年三つ目の工場を40億円かけて造りました。従業員は今210名です。何をやっている会社かというと、我々は製品のサービスを通じて社会に安全を供給しています。例えばエアコンって皆さんの家にあると思うんですけど、エアコンの室外機が爆発事故を起こしてしまわないためのプロテクターを作っています。これは年間5000万台ぐらい、世界シェアNo.1の製品になっています。もう一つは感震器。感震器はガスメーターに必ず入っていますので、オール電化じゃなければどのご家庭にも必ず入っています。地震が起きたときにセンサーが反応して家にガスが入るのを止めてくれるセンサーで、これが今、国内シェア93%で、日本No.1の製品となっています。そして、社内におけるブレイクスルーとなっているのが「pioma」という防災バッグ事業。本日はここを中心に紹介したいと思っています。社員の女性メンバーだけで、ギリシャ神話から名付けたミネルヴァチームというのを作りました。優秀な女性社員がいっぱいいるんですけど、製造業は活躍させることがなかなか難しいようなところがあり、それを払拭することが最初のスタートでした。1年目の売り上げが3,000万円で、それでも十分よく売れたと思っていたんですけど、結果的に3年目で4億8,000万円まで伸びました。

生方:話は、「サイレントヒーロー」に戻ります。生方製作所は、防災バッグを持ち出すことによって被災した状態でも皆様を守りたいという思いがあります。プロテクターも感震器も、全て人の命を守るために存在しています。ただ、例えばプロテクターって、エアコンのコンプレッサーが爆発しそうになったら発動し、結果的に、電源が落ちるだけで済むという仕組みです。なので、皆さんはプロテクターに守られていることに気づいてないわけです。それって、すごくかっこいいな、ヒーローだなと思ったので「サイレントヒーロー」という言葉をよく使っています。皆様の生活を静かに守るものを作っている会社だと考えています。
技術の応用でニッチな市場を攻める

会場の様子
吉澤:今日のトークテーマは「当たり前の再定義から始める新市場開拓の実践論」。ここからさらに、三つぐらいのテーマでお話していこうかなと思っています。一つ目は「直面した市場の壁、新市場を開拓していくときにどんな壁があったのか。同時に、開拓していくときにどんな強みが出てきたのか」。二つ目は、「自社の強みを見つけていくときに当たり前になっている技術をどう捉え直したか、自分たちでどう再定義してきたか」というところ。三つ目は、新しいことをやっていくにあたって社内外においてどう仲間を作り、また仲間を作っていく上で大事にしているところ」を聞いていければと思っております。まず、先ほどカミソリの現場を見させていただいて、今回の「ぶどう巻つる処理機」は形がまったく違うと感じたのですが、どう技術が生かされているのですか。
熊田:ポイントとしては二つあります。カミソリを作る工程って、どの工程も“専用機”が並んでいる状態で、なおかつそれぞれの工程でノウハウが必要になります。そのためカミソリは新規参入がすごく難しい業界と言われるんですけれども、まさにこの辺りの技術・ノウハウがあったからこそ実現し得たというのが一つポイントとしてあります。またもう一点、薄い金属に刃を付けることができるというのも弊社の強みとしてあります。一個一個の刃の先端をどうするのか、配置をどうするのかっていうところは、まさにこの技術が応用されています。
吉澤:全く違う相手との商売だと思うんですけど、そのきっかけは何だったんですか。
熊田:カミソリ市場の縮小は昔から言われていることで、業界・ジャンル問わず、とにかく切る技術で貢献できることはないかというネタ探しを、日常的にやっていました。その活動の一環で、関市ビジネスサポートセンターというところがございまして、そこに何かいいネタありませんかとお伺いしたところ、「ぶどうのつるで悩んでいるらしい」という情報をいただいたのが一つのきっかけです。
吉澤:ぶどうのつると聞いたときは、行ってみようなのか、それはさすがになのか、どっちでしたか。
熊田:出発点として、もともとカミソリの刃を農業の分野に生かせないだろうか、という前向きな気持ちがありました。植物の茎って、カミソリでスパッと綺麗に切れるんです。農業分野というか、植物を切るということで依頼を受けることはあった中で、ぶどうのつるの話を伺った感じだったんです。ただ、カミソリ片手に現場に行ったら、全然切れない。これをやるなら電動工具で断続的にアタックするしかないと思ったところが始まりです。

生方さんも「ぶどう巻つる処理機」に興味津々
生方:自分で直接現場に行って話して、いけると思ったんですね。
熊田:いえ、当時の社員も行ったのですが「こんな硬いなんて」っていう。皆さん、つるの硬さをそもそもご存知ないですよね。指の太さぐらいのものがカチカチになっていて、ワイヤーもある。何でワイヤーがあるかと言いますと、ぶどうはツル科の植物なので自立できないから、何かに巻き付いてより大きくなるという習性があり、その過程でつるが伸びていくんです。人間がコントロールしやすくするためにワイヤーがあるんですけど、収穫が終わると残ったつるがカチカチになって残るという具合です。
吉澤:逆に可能性を感じるみたいなところがあったわけですか。
熊田:農家の方から、「いつか誰かが製品化してくれるんだろうな」、「まだかな」という話は結構言われて。ニッチすぎて誰もやってなかったっていうのはありました。
吉澤:製品化までどれぐらいかかったんですか。
熊田:形になるまでに5年ですね。今はそれなりに売り上げが上がってきたので「よかったね」っていう話ですけど、開発中は社内でも「まだやっているのか」という話が出ていたと聞いています。
吉澤: その5年間は、市場も広がっていくし、これはいけるぞみたいな気持ちだったんですか。
熊田:それはありますね。製品化してからの結果論ではありますが、ぶどうに狙いを定めてよかったというのもあって。ぶどう農家さんはお金を持っている人が多いから、少々高い製品もさっと買ってくださるマーケットだったというのは、一つ良かった話かなと思います。
「今は何とかなっても10年後も維持できるのか」
吉澤:生方さんにお聞きします。防災バッグは、防災の市場が伸びているだろうなって何となく想像つくんですけども、防災バッグを作っていくぞという段階で、それが念頭にあったんですか。
生方:ありましたね。ただ正直に言うと、ビジネスとしては実は儲ける気がなかったんですよ。そもそも利益を出すつもりもなかったんです。一番やりたかったのは、ミネルヴァチームのように、製造業にも女性社員の存在意義がちゃんとあるところを社内で共有したいという部分でした。その上で、競合となる商品を見ていたら、値段はお手頃だけど実際にあっても使えないみたいなものが結構あったんです。瓦礫の除去は軍手では無理で、ゴム手袋じゃないとだめだよねとか。より良いものを多く取り入れて、ちゃんと安全を届けたいという思いが生まれました。
吉澤:新事業とか考えるときって、その市場がどれぐらいあるかとか、市場もこうなるからみたいなことが先にくる話も多いと思うんですけども、お二人の話からは好奇心や思いみたいなものを感じます。もともとそうだったのですか?
熊田:うちの場合、業界で誰も製品化してないというところは一つのポイントでした。でも防災リュックって、既に何社かあるところに行ったわけですよね。そこが弊社とは決定的に事情が違うなと思うんですけど、あえてそれでも突き進んでいった理由はあるんですか。
生方:多分No.1になろうとしていなかったのはあるかもしれないです。今もNo.1ではないですし。市場が大きい中で、差別化や異なるターゲットみたいなところでうちが入る隙ってあるのかなって考えたときに、ありそうだなとは思いました。あと、危機感がありましたね。僕の会社は72年もやっているわけでしょう。感震器は30年以上、プロテクターは20年以上売っています。それが売れているから続いてる会社なんです。でも技術革新が起きて、コンプレッサーが爆発しなくなりましたとなったらどうするのか。利回りで数年は何とかなっても10年後も維持できるのかと言ったら、維持できていない可能性が高い。だったら何かやらないとヤバいみたいな、そういうところからの事業の多角化です。
熊田:生方製作所さんも、何かネタがないかなっていうアンテナを常に広げていたんですか。
生方:そうですね。

登壇者お二人の間でも、質疑や応答が盛んに行われていました
吉澤:アンテナを張る中で、どの辺にとか、こういう目線で見ているとか、意識されていることはありますか。
生方:多分、当たり前の答えになっちゃうけど、やっぱり自分の会社と親和性が高いかどうかはすごく大事。防災バッグも、弊社と関係ないことではありません。生方製作所がやるからこそ、人の命を守ることやってきた会社だからこそ、いいものを作れるよねっていう自信があったと思います。逆に言うとうちは飲食とかはやれないはずで。やってもエッジがない。エッジが出せるところが親和性があるところ、っていうのを僕は考えています。
「あえて狙い撃ちをしない動き」がリターンに繋がる
熊田:僕の場合は、結果として親和性が高かったんだなっていうのが多いかもしれないです。アトツギ甲子園をきっかけに名刺交換した人が1000人ぐらいいるんですけど、もう本当にいろんな業界の人と名刺交換して。僕は名刺交換の場で、「鼻毛の熊田」で覚えてもらえるように、鼻毛カッターを絶対渡すようにしているんです。それで面白いなと思ったのは、コワーキングスペースの方と名刺交換をしたとき。コワーキングスペースは接点がないだろうなと思いながらも名刺交換したんですけど、コワーキングスペースを使う人は小奇麗なビジネスマンが多いからということで、実際に鼻毛カッターをアメニティとして置いてもらうところまでいったんです。そういう切り口で言うなれば、高級な飲食店ってマウスウォッシュとかあるので、そういうところに鼻毛カッターがあったりとか、ゴルフ場のシャワールームに鼻毛カッターがあったら、身だしなみを気にする紳士の方が使ってくれるかなとか。そういう経験もあって、僕はあまりこの業界みたいな感じで狙い撃ちをせずに、とにかく接点を持ちに行けば何かが広がるみたいな感じの動き方をしています。
吉澤:親和性ってどういうときにあるんだって感じますか。
生方:多分、感覚じゃないですかね。何となく、いけそうだという。結局、自分で鼓舞するための感覚なのかもしれません。あとは社員や優秀な子たちが持つポテンシャルを引き出すとか、提案なりを言ってもらえる空気を作るみたいなことでしょうか。
熊田:それで言うと、だいたい次に繋がるときって、一番はじめにお金の話が出てこないんですよね。お金よりも、思いに共感みたいなところがある。この人と友達になれるかもしれないというようなところから話が広がっているケースの方が多いような気がします。そういう意味では、全然知らない業界の人たちが集まるところに出ていくのは、結構リターンが大きいというか、得るものが多いような気がしています。
吉澤:意外とお二人は対照的かもって思いました。全然関係ないところっていう話と親和性というところ。でも目指しているところは同じですよね。
生方:一緒ですね。すごく面白いなと思いました。熊田さんの考えは、経験を通して実際に感じている事ですものね。ちょっと僕も、一回それを経験しておこうと思いました。その感覚はなかったですもの。
どうやったらみんなを巻き込んで、同じ方向に向いていけるのか
吉澤:続きまして、「当たり前の再定義」について入りたいと思います。お話を聞いていると、お二人とも技術を広く捉えているように感じられるのですが、その経緯や転換がなぜできたのかをお聞きしたいと思っています。
熊田:次のテーマの仲間づくりにも繋がっちゃうかもしんないですけれども。まず立ち上げるまで、そこからブラッシュアップするまでは、先ほど申し上げた関市ビジネスサポートセンターがサポートしてくれたというのがあります。関市ビジネスサポートセンターから長野県塩尻市のぶどうが盛んな地区の農家の方を紹介いただいたんですが、そこの農政課の職員の方がめちゃくちゃ助けてくれました。「農家に聞いたらいいんじゃないか」って繋げてくれて、どういう方法がいいかを一緒になってやってくれたのは大きかったです。自社だけの限られた人で悩んでアイデアを出すというより、外の視点も入れていったというのが、一つのストーリーとしてあります。
吉澤:現地からもっとこうできるんじゃないかみたい声が出たときは、とりあえずやってみるかみたいな感じで受け入れていたんですか。
熊田:そうですね。

ときに話の内容はシビアでも、お二人の軽快なトークで会場は終始和やかな雰囲気
吉澤:生方さんにお聞きしたいのは、BtoBからBtoCにいくというときに、女性社員の方々に任せてやっていったと思うんですけれども、任せた皆さんも同じ発想でいけていたんですか。それとも半信半疑でどうするみたいな感じでしたか。
生方:まず、チームトップの女性だけは、信じていたと思います。会社全体としては、「なんかやってるよ」「また会社の金を使っているよ」って、周りの目がすごく冷たいようなところは正直ありました。新規事業あるあるです。なので、特別扱いすることをすごく意識しました。防災バッグを立ち上げるときに苦労したのがカスタマーサービスでした。toBは品質保証の話ですけど、toCはカスタマーサービスになる。カスタマーの方々に対して誠意を見せるために、本当にいろんなところに謝って、お菓子も持って行ってみたいなこともやるんですけど、これってtoBの会社にはないんです。65年、toBでやってきた会社にはその発想すらないんですよ。だから、これって生方製作所的にグッドですかバッドですかみたいなことをもう取っ払ってしまって、特別なものとして展開しました。生方製作所の社員とは服装や名刺も変えましたし、システムも再構築しました。完全に別会社みたいな感じでやりました。
熊田:人数を決めて、新チームを発足して走らせたのは生方さんですか。
生方:僕じゃないです。主要メンバーを決めるところまでは携わって、そこからは募集をかけて決めました。「うちは製造業なのにかっこつけて」とか「会社の経費かけて」みたいな雰囲気がはじめはありましたから。
熊田:僕も出張に行って成果を持って帰ってこないと「遊んでいる」と思われるようなことがありましたね。
「努力を見せる」ことと「売り上げ」で、社内の流れが変わる
吉澤:社内の目が変わっていくタイミングってあると思うんですよね。
熊田:僕はわかりやすくて、アトツギ甲子園ですね。製品はできたんですけど、知名度はまったくなくて、そもそも会社もそんなに有名じゃない上に農業の機械をやっている会社でもないので。とにかく知名度を上げる方法をどうしたらいいかと考えたときに、手っ取り早く上げる方法がアトツギ甲子園でした。オンライン配信を製造の若い無口な作業員が見てくれていたらしくて、帰ってきたら無言で握手を求められました。もうその瞬間めちゃくちゃ嬉しかったですね。わかりやすく頑張っている姿を見せたっていうのは、流れが変わっていくきっかけにはなると実感しました。
生方:うちの場合、やっぱり圧倒的にわかりやすかったのは、売り上げです。「100億突破するぞ」って言い出したのが創業50年目なんですけど、10年以上ずっと超えなかったのが、防災バッグで超えた。そうすると、会社の中で防災バッグがどんどん当たり前になっていきました。例えば社内報のコーナーができたり、社内で即売会をやったりとか。これがロールモデルとなって、今後また新しいビジネスをやるってなったときも進めやすいだろうなって思っています。ただやっぱり、スタートの共有は足りなかったなと思いました。僕も社員が握手しにきてくれたらすごく嬉しいはずで。何人かはわかってくれているけど全体はそうじゃなかったので、圧倒的に会話やコミュニケーションが足りていなかったというのは、今ちょっと思いました。
熊田:生方さんご自身が社員の方に向けて話す、方針説明会みたいな場ってあったりはしないんですか。
生方:あります。そこはすごく徹底していて。従業員が200人ぐらいなので、経営計画や方針計画について、8日間ぐらいの日程に分けて25人ぐらいずつでやるんです。それ以外にもメールや社内報だったりとか。ただ僕って、自分のルールで短期経営計画しか作らないんです。中期経営計画というのは作ってないんです。なぜかと言うと、作っても意味がないと思っているから。ただ、今、猛烈に反省していて、作ればよかったって。今年、フィリピンに工場を作る、大阪に支社を作る、設備会社を買収する、人事制度を改定する、クラウドをパブリッククラウド化するという5つの計画を立てているんですけど、僕の短期経営計画には一つも書いてないんですよ。なんで書いてないかというと、やるのは来年だからです。でも、来年やろうとすると今年アナウンスしないといけないじゃないですか。だから別口のランチ会などで人を集めて定期的に説明するんですけど、すごくカオス。労働組合も強いのでそれも大変なんですけど。「社長、何が言いたいんですか」、「今までの生方製作所はどうなるんですか」ってよく言われる。どうやったらみんなを巻き込んで同じ方向に向いていけるか、すごく今、悪戦苦闘していますね。
吉澤:形になってきたから先がどうなるのか気になって発言量が増えていったのか、最初からどうなるのかと言ってきているのか、どっちですか。
生方:発言量が増えていくほうですね。P&Gにいたときって、向上心があって仕事ができて、自分で頑張って起業した人たちがいっぱいいました。僕はその後にアパレルに行っているんですけど、僕の最初の上司は中卒でもめちゃくちゃガッツがあって、この会社で成功したいという思いがありました。逆にレガシーの中小企業って、特にうちのように法律で作ることが決まってるデバイスというのは、頑張っても頑張らなくても売れるんです。人事制度を変えるのもそれが理由で、年功序列で給料もあまり変わらないと思ってしまうような空気を変えたいんです。実際、僕が代表取締役になってからいろいろ変わってきたようなところがあって、声も増えてきました。ちょっとフェーズが変わってきていて、「第2創業期」という言い方をさせてもらったりもしています。
熊田:私も今の役職が常務で、5月に拝命したんですけど、それをきっかけに経営方針を全部変えようとしています。明確に言語化した説明はまだ社員にはしてないですけど、主要メンバーには徐々にしています。いろいろ一気に変えているので大変なんですけど。
生方:これ言ってなかったっけみたいな話とかよくありますよね。目線合わせって経営者としてはめちゃくちゃ課題で、誰も裏切っているつもりもないんですけど、「私たちのこともういらないと思ってるんですね」みたいなことになる。そこは本当に課題です。
ときに儲けや利益よりも伝わるのが「思い」
吉澤:社外に目を向けるときは、皆さんどう考えられているんですか。両社とも特許も取ったりしながら技術を守ることもされていると思いますが、一方ある程度オープンにもしながらコラボレーションしていくみたいなことも結構必要なのかなと思ったりもして。社外の方と連携していくという点で、気をつけているところがあれば教えていただきたいんです。
生方:やったことがなかった防災バッグは、自分たちでメーカーを探すことから始まりました。大きい商社だと代理店を通してくださいと言われるんですけど、これが先ほども出ましたチームトップの女性のすごいところなんですけども、彼女はもう、飛び込んで行くんですよ。「話を聞いてください」、「私たちは人の命を守るために一生懸命やっていて、もっと多くの人を守りたいと思っているのでバッグを始めます。その暁には一緒にビジネスをやってください」と。実際彼女の活躍で、あるすごく大きい食品メーカーさんがあって、うちは今、その会社の3番目のお客さんになれています。結果的に、儲けや利益よりも「面白そうだな」とか「その気持ちに乗った!」みたいな会社がついてきてくださっているのかなと思うと、仲間作りは本当に大事だと思います。
熊田:「ぶどう巻つる処理機」の海外進出をやっていまして、仲間作りを大切にしています。一つは、海外のある地区で、そこにいる大学教授と繋がり、その土地での研究をお願いしました。数値が出ればちゃんとエビデンスになると考えたからです。またもう一つ、長野にあるワイナリーのおじさまと仲良くさせてもらっていて、その方に協力をいただいています。その方68歳で、ワイナリー始めたが60歳なんです。それまでの40年間は、フランスワインの輸入をされていて、フランスのワイナリーと繋がりがある。僕もフランスに駐在しましたみたいな話をして、話が盛り上がって、それで一緒にフランスに行こうよとなって、今年の7月に一緒に行きました。来月もエリアをかえていく予定です。初回は大規模なぶどう農園を訪れたのですが、日本とは規模が違いすぎて、いくら電動とはいえここで「ぶどう巻つる処理機」は使わないだろうとわかりました。それで次回は、小規模でこだわりを持ってやっているような、いわゆる高級エリアに行こうと思っています。
吉澤:おじさまと一緒に行ったからわかったことですね。
熊田:そうなんです。ただポイントは、任せないことかなとも思っていて。最終的にはやっぱり、自社が自ら事業を取りに行くというスタンスです。
吉澤:ちなみにそのおじさまは、熊田さんのどこに共感して手伝ってくれていると思いますか。
熊田:「あなたには頑張ってほしい」とあるとき言われたことがありました。70歳近くなってくると、ビジネスを拡大して儲けるぞみたい心意気じゃなくなってきて、それよりはむしろ、日本が発展していくために頑張っている次世代の人へ託していきたいし、応援したいということを話されていたときでした。生方さんのところの女性ともしかしたら同じで、思いをがむしゃらに話していたのが伝わったのかなと思います。
吉澤:ただお金を儲けたいんですっていう人が来ても、協力しなかったんじゃないかなって感じられますね。
熊田:とはいえ、ホームページを見て、新しいお客さんになるんじゃないかと期待して機械を売りに行ったのが始まりではあるんです。「今日は出荷で忙しいから」と断られそうになったので、出荷を手伝いますと。一緒にやりますみたいなところからですかね。でも、もともとはいいものだから、使ってもらったら絶対売れるという自信もありました。
調子にのらず、紳士なふるまいで、そして楽しませる
吉澤:お二人ともありがとうございました。最後に、何かメッセージのようなものをいただけますか。
生方:何か話す機会があると必ずお話させていただくのが、僕が生方製作所の代表取締役社長をなぜ37歳でやったかっていうと、僕は生方家の人間だからです、というもの。経営者だからじゃないんですよ。生方家の長男が会社を継いだっていうのは銀行としてはすごく強いわけです。だけど、経営者じゃないんですよ。生方製作所の前に経営者をやってないですから。なので僕は、リーダーシップとオーナーシップっていうのをすごく大事に守っています。僕は生方製作所の株主でありオーナーであって、経営者ではない。僕は社長になったときに外から人を引っ張ってきました。僕が信頼している人です。気をつけているのは、調子にのらないことです。2代目とか3代目って勘違いする人が多いんです。なんの不自由もなくいい高校、いい大学を出て、お小遣いいっぱいもらえて、もしかしたらアルバイトをしたことがない人もいるかもしれません。そういった環境の中でいろんなことがわかってない。僕は常々、僕が何でもわかっているわけじゃないということを自分で認識する必要があり、真摯でいることが大切だと思っています。

自分は経営者ではないとし、「真摯でいることを大切にしている」と話す生方さん
生方:ちょっとかっこつけているし、ふざけているし、調子にのっていると思われるかもしれないけど、これは僕なりの照れ隠しなんですよね。なるべく真摯に、嫌われたくないな、生方製作所って面白い会社だなって思ってもらいたい。あいつ頭悪そうだけど面白そうじゃんみたいに思ってもらえるように気をつけています。結局、全部ガッツなんですよ。でも、実際生方製作所はそれで回っているから、それでいいんじゃないかなと思っています。名古屋セッションのときに、明治18年からやっている会社のまだ若くて20代の娘さんが、「この先私がやっていきますが不安です」と僕に言うんです。「会社ってどういうときに潰れるんですか。キャッシュフローが回らなくなったときとか、お金を借りられなくなったときですか」って。会社って、その会社に価値がないと社会から見放されたときに倒産すると思っていて。僕はガッツでも何でもいいから、会社に価値があるうちに新しいものを見つけて変わる必要があると思うよと言いました。何かを新しく習得する必要はないと思っているし、むしろ今、会社で十分利益として回っているのであれば、今ふざけてしまってもいいんだというふうに思っています。以上です。本日はありがとうございました。
熊田:すごく深いですね。僕の場合、いかに楽しませるかなのかなっていうのは少し思いますね。会社の製品の鼻毛カッターは、人と話す時はすごく良いフックになっているというのがあるので、これをきっかけに笑いを取りにいかない手はないだろうというのがあります。会う人をどうやって笑わせにいくかみたいなのは常に考えています。エンターテイメントっていう言い方がいいのかな。楽しませることを心がけるっていうか、結果そうなっていることが多いんです。

「エンターテイナー」と言うにふさわしい、ファクトリーツアーで参加者に話をする生方さんの姿

I-OPEN Central、セッション最終回となるI-OPEN Central GIFU Sessionも、充実の内容で終えました。最後はお決まりの、記念写真で!
登壇者プロフィール
conomichiでは
【conomichi(コノミチ)】は、
「co(「共に」を意味する接頭辞)」と「michi(未知・道)」を組み合わせた造語です。
訪れる人と地域が未知なる道を一緒に歩んで元気になっていく、「この道」の先の未知なる価値を共に創り地域に新たな人や想いを運ぶ、そんな姿から名付けました。
今まで知らなかった場所へ出かけて、その地域の風土や歴史・文化にふれ、その地域の人々と共に何かを生み出すこと。そこには好奇心を満たしてくれる体験があふれています。
地域で頑張るプレイヤーの、一風変わったコンテンツの数々。
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技術は継ぐ、常識は超える。―クローズかオープンか?価値の再読から始める新規事業戦略― 【I-OPEN Central AICHI Session】開催レポート
愛知県中部経済産業局2026/01/30 更新
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