REPORT
2026/03/05

会社の未来を“編集”するブランド戦略【I-OPEN Central TOYAMA Session】開催レポート

日 程
9/5
場 所
富山県
主 催
中部経済産業局 共催:富山県

情報が溢れる時代、顧客や社会に選ばれる理由は、製品のスペックだけではありません。その企業が紡いできた歴史、貫いてきた哲学、そして未来へ向けたビジョン。それらをどう「編集」し、伝えるかが、ブランドの価値を大きく左右します。
 

今回のI-OPEN Central TOYAMA Sessionでは、事業変革を通じて自社のブランドを鮮やかに再構築した、2つの企業に焦点を当てます。
 

一人は、経営危機にあった老舗酒造から、忘れ去られた原酒の「物語」を発掘し、世界初の技術開発へと繋げることで、業界が注目するブランドへと「再発明」した、三郎丸蒸留所の稲垣貴彦氏。


もう一人は、「おにぎりせんべい」という国民的ブランドを基盤としながらも、社会への約束である「理念」を軸に多角化を進め、地域に深く根ざした信頼の企業グループへとブランドを「再定義」し続ける、IXデジタルの神山大輔氏。
 

危機からのV字回復と、安定からの持続的成長——、両氏は、置かれた状況も、選んだ手法も異なりました。
 

自社の歴史とどう向き合い、未来のファンを惹きつける「新しい顔」をどう創り出したのか。トークセッションからは、その思考の深層に触れることで、あなたの会社が持つ価値を再発見し、未来へ向けて編集していくためのヒントが見つかります。

INDEX

  • 三郎丸蒸留所見学を経てトークセッションへ
  • 事業変革を果たした三郎丸蒸留所
  • 「伊勢志摩を新しい時代に向けて力強くトランスフォーム
  • 「ちゃんと、ウイスキーをやりたい」
  • 「文化だからしょうがない。でもだからこそ、文化を変えなきゃ」
  • 社員コミュニケーション「本音を言ってもらわないとよくならない」
  • 「デジタルはわかりやすく時間が短縮できる」「人がやるべきことで大事なのは、考えること」
  • 「みんなにメディアになってもらう。“伝えたい”と思ってもらえることが大事」
  • 「ブームから文化へ、意識を定着させていく」


会場となった、富山県砺波市の三郎丸蒸留所。

 

トークセッションの前には、三郎丸蒸留所見学が実施されました。

三郎丸蒸留所見学を経てトークセッションへ

吉澤:本日は、I-OPEN Centralのセッション第3回目となります。I-OPEN Centralは地域が抱える社会課題に焦点を当て、誰かの助けになりたい、社会をより良くしたい、そんな思いと創造力を起点に、個人、企業、自治体が立場や役割を超えて未来を切りひらく取り組みを支援する中部経済産業局のプロジェクトです。本日のセッションは、主催の中部経済産業局に加えて、JR東海のコノミチとアトツギスタートアップ共創コミュニティタキビコの共同開催となっております。
 

右からIXデジタルの神山大輔さん、三郎丸蒸留所の稲垣貴彦さん、モデレーターの吉澤さん。

吉澤:若鶴酒造のファクトリーツアーで実際の現場を見ていただきましたので、今、だいぶ熱が高まっているんじゃないかなと思います。このあとはセッションに移っていきたいと思います。ではさっそくですが、ゲストのご紹介をさせていただきます。若鶴酒造代表取締役社長兼三郎丸蒸留所マスターブレンダー兼マネージャーの稲垣貴彦さんです。自己紹介をお願いします。

稲垣:改めまして、若鶴酒造社長の稲垣です。本日は皆さんに三郎丸蒸留所を見学していただきましたが、非常に暑いところだったと思います。暑いですけれども、やっぱりこの暑さも含めて五感で感じていただいて、その熱を忘れないで持って帰ってもらいたいなと思います。
 

吉澤:IXデジタル株式会社代表取締役社長の神山大輔さんです。 
 

神山:皆さんこんにちは。IXデジタル株式会社の代表しております神山大輔と申します。今日は三重県伊勢市から車で来ました。これまでなかなか来る機会がありませんでしたが、富山は素晴らしい場所で、何より先ほどの工場見学を経て、本当に今、すごくテンションが高まっています。今日は本音でお話できればなというふうに思っております。


吉澤:本日のトークセッションのテーマは会社の未来を編集するブランド戦略です。まずはインプットに、お2人がどんな事業をされているのか、今どんなことを目指しているのかのお話をいただきます。
 


事業変革を果たした三郎丸蒸留所

稲垣:若鶴酒蔵は文久2年、1862年に日本酒を造る酒蔵として創業しました。曾祖父が約70年前にウイスキー事業を始めまして、現在は日本酒の「苗加屋」、ウイスキーはシングルモルトの「三郎丸」とブレンデッドウイスキーの「サブ」を主軸に製造しています。ハイボール缶はじつは2019年にうちが初めて開発いたしまして、累計500万本を突破しています。そんな弊社のミッションは「地域に拠って世界に立つ」です。地域に根づきながらも世界に存在感を発揮していこうということで、地域資源を生かしながらここでしかできないもの作りをしながら、実際に多くの人に来ていただき、見て感じてもらうことをミッションとしております。
 

三郎丸蒸留所はファクトリーツアーを開催し、見学者を積極的に受け入れている。この日、参加者をガイドする稲垣さん。


稲垣:私自身の経歴は、大阪の大学を出た後、東京のIT企業に入社しました。富山に戻って来たのは2015年。そのときウイスキー事業はボロボロの状態だったのですが、曾祖父が蒸留したウイスキーを飲んで感動した過去があり、ウイスキーを再興したいと思ったことが始まりです。私が戻ってきた頃の売り上げはウイスキーが1割で日本酒が9割でしたが、今は8割がウイスキーで2割が日本酒となっています。富山県は非常に高い山と深い海、自然に恵まれた場所です。三郎丸蒸留所は富山駅と金沢駅の間にある新高岡から城端線に乗って20分ぐらい、油田駅の目の前にあります。三郎丸地区は田園風景が広がる散居村で、雪も非常に多く降ります。南砺市のアニメ制作会社が作った「駒田蒸留所へようこそ」というアニメ映画の舞台となっておりまして、そのおかげで今年は4万5000人近い方が訪れるのではないかと思っています。
 

「三郎丸蒸留所」「大正蔵」「昭和蔵松庫」の3つの建築物が国の登録有形文化財に登録されています。写真は大正蔵。
 

稲垣:若鶴は約160年の歴史を持っています。なぜウイスキーをやるようになったかというと、曾祖父の時代、戦後間もない頃で米がなかったんですよね。ウイスキーという全く新しい蒸留酒の研究を始め、ウイスキー造りが始まっています。ただ、私が戻ってきた時、蒸留所はボロボロでした。このままではお客さんに来ていただくわけにもいかないし、そもそも地元の人でさえ若鶴酒造がウイスキーを70年やってきたということを知らなかったんです。誰にも見せて来なかったということも理由にあったと思います。それを一念発起して、クラウドファンディングで資金を集めて蒸留所を改修し、見学できる蒸留所として生まれ変わりまして、今では世界的な賞を獲得できるような蒸留所として成長しました。世界で初めての鋳造製の蒸留器も特徴です。富山県の伝統工芸である鋳造で、高岡銅器の技術を使って鋳造製蒸留器を作ることに成功いたしまして、日本と英国でも特許を取得しました。寿命が長くなって、熱効率も良くてエネルギーの消費も二酸化炭素の排出も半分で済むということもあって、いろいろな物作りの賞をいただいています。


「伊勢志摩を新しい時代に向けて力強くトランスフォームする」

神山: IXデジタル株式会社の代表を務めております。事業内容はDX推進支援、要はシステム屋さんでございます。設立は去年の10月。この9月末でやっと1年を終える創業1期目の会社です。場所は三重県伊勢市にございまして、伊勢神宮のお膝元でシステムの方をやらせてもらっています。私は50歳、誕生日が9月10日でございますので来週で51歳でございます。三重県出身でございますので三重大学に行きまして、もともと生物をやっていたのですが、ひょんなことからNECに入社いたしまして、そこからずっとIT業界におりました。NECの後に日本CAというニューヨークに本社がある外資系のソフトウェア会社に転職しまして、それが2018年にブロードコムと半導体メーカーに買収されちゃいました。もう会社がないということでどうしようかなと思ったときに地元の伊勢から「帰っておいで」と声を掛けてもらって、今のIXホールディングス(当時マスヤグループ本社)のグループCIOとして呼んでもらって、伊勢にUターン転職しました。これが6年ほど前になります。そこでグループ全体のシステムを見ながらやっていましたが、昨年10月にグループ外でシステム提案ができるようにしましょうということで、会社を立ち上げたということでございます。
 

自己紹介をするIXデジタルの神山さん。


神山:私どもIXホールディングスというホールディングス企業でございます。IXって何なのかというと、IXのIは伊勢志摩のIです。伊勢志摩を新しい時代に向けて力強くトランスフォーム(X)させたい、そんな思いを込めた社名です。ロゴは鹿のマークです。伊勢志摩が僕らの定義でもありますけど、伊勢市、鳥羽市、志摩市、南伊勢町、この四つで伊勢志摩としたときに、くるっと上下を反転させると鹿に見えるからです。そして、僕たちはすごく経営理念を大切にしている会社でございます。「本物づくり」、「人づくり」、「地域づくり」、この三つをどうデジタルで実現するか、そういう取り組みから始まっています。
 

神山さんはこの日、朝6時半に三重県志摩市を車で出発し富山までやって来ました。

神山:まず本物づくりについて。これはいかに現場で、本物のデジタル化、システム化を進めていくかというところに今注力をしております。例えばおにぎりせんべいを作っていくときの工場の中の情報、データの見える化、AIによる異常検知、電子化、コミュニケーションを全部スマホやタブレットでできるようにするなどを、デジタルの世界で本物って何だろうなって常に思いながらやっています。次は人づくり。人づくりは仕事を通して人生の幸福を追求することとしています。伊勢は、正直デジタルのリテラシーが高いといえないので、基礎の部分をみんなと勉強しながら高めているというところです。去年は全社でITパスポートに合格しようということで、半年間、毎週木曜日の夜7時から9時にZoomで集まって勉強会をしました。最後に、地域づくり。これは地域社会の豊かさ作りに貢献することです。とくにデジタルの舞台は、若い世代に注力していて、eスポーツ大会やプログラミング教室を開催しています。IXデジタルという会社ができたのは、そういう理念に根ざしたことをやりながら積み重ねることができたことで、昨年の2024年、DXセレクションという経産省がやっているDXの優良事例に選ばれました。その後に関西DXアワード2024といって、関西エリアのDXのコンテストがあったんですけど、地域を超えた結果ということでそこでも選んでいただきました。それが終わると今度は、日本商工会議所から連絡があり、三重県の事例を機関紙に載せて欲しいということで、これはもう、グループ外にも出ていこうとになり今に至っています。

「ちゃんと、ウイスキーをやりたい」

吉澤:ではトークセッションに移っていきたいと思います。今日はトークテーマを三つほどご用意してきました。まず一つ目は「価値の再定義」、2つ目は「編集」、三つ目は「未来のファンとの繋がり方」を軸に、いろいろ聞いていきたいと思っております。まず、価値の再定義というところで、100年以上の歴史を持つ若鶴酒造で、蒸留器を始め、稲垣さんはどうやって価値を再発見していったのか、その経緯を改めて聞いてもいいですか。


稲垣:私が蒸留器を開発したのは2019年。当時、蒸留器が1基しかなくて、しかも小さかったんです。ウイスキーは2回蒸留しますので基本的には2基一対なんです。蒸留器を新たにしなきゃいけないと思ったときに、当時、世界中にウイスキー蒸留所ができている段階で、蒸留器を手に入れるのまで2年も3年も待たないとならない状態だったんです。だったら、富山県というのは銅器の国内生産90%を占めるような町なのだから、地元の技術で蒸留器を作れば唯一無二のものになるし、伝統工芸としてバブル期以降どんどん高岡銅器が衰退していく中で、地域の宝を守ることもできるのではないかという思いで開発しました。
 

世界初の鋳造製蒸留器「ZEMON」

吉澤:新しく蒸留器を作るところって、他にもあるのですか。
 

稲垣:ないですね。本来、蒸留器というのは銅製であることが絶対です。でも僕は、高岡大仏や二上山の大きな鐘を見て、蒸留器のポットスチルの形に似ているなと思って、鋳造で蒸留器を作ったらどうなるんだっていうところが始まりでもあります。
 

吉澤:前回のセッションで職人の方に話をしに行ったら「できるよ」と即答いただいたというお話でしたけど、会社の中の方々はそれを聞いたときはどんな感じでしたか。
 

稲垣:若鶴酒造のウイスキーの歴史は長いですけど、ウイスキーがどういうものであるべきか、ということ自体が繋がっていないようなところがありました。私が戻ってきたとき、蒸留器はステンレス製になっていて、それだと絶対にいいウイスキーはできないんです。ウイスキー作るためには銅が腐食して化学反応を起こす過程も必要なのですが、蒸留器が消耗していくからとステンレスに変えられていた。また、1960年に曾祖父が蒸留したウイスキーの原酒が残っていて、それってものすごい価値を普通は持つんです。でもそれすら放置されていたり。すごくいいものがあるのに、その価値をわかっていなかったし、価値がわかっていないから違う方向に行ってしまっていました。ちゃんとウイスキーをやりたいと思っていた僕に対して、正直に言うと、反対するほどの知識がある人たちはいなかったんです。私が戻ってきたときにウイスキーが占める売上の割合って10%しかなかったので、かつ夏に1、2週間作るだけのものだったので、その部分に何かこだわりとかがあるわけではなかったように思います。
 

「ちゃんとしたウイスキーをやりたい」と思った理由の一つには、曾祖父のウイスキーを飲んで感動した経験があります。

吉澤:そこから実際に、自分たちで作ることをスタートしていくと思うんですけど、社員の受け止め方が変わっていったタイミングってありましたか。


稲垣:蒸留所を見学できるところにしようということで、クラウドファンディングでその当時は本当に珍しかったんですけれども資金を集めまして、当時3800万円という日本で5番目ぐらいの金額を集めました。支援してくれた方は80%が地元の人でした。クラウドファンディングというと全国のウイスキー好きの人がお金を出してくれるのかなというイメージがあると思うんですけど、あの頃ってクラウドファンディングが全く浸透してない時代だったので、地元のおっちゃんとかがお金をボンと出してくれて。でもそれくらい地域の人が期待してくれていたし、それを見たことで、グループとしてもしっかりウイスキーを立て直していこうとなり、そのとき大きく前進しましたね。


「文化だからしょうがない。でもだからこそ、文化を変えなきゃ」

吉澤:神山さんにお聞きしていきます。社員の方との対話はDXはすごく大事だとは思うんですけども、自分たちはデジタル無理だよとか、そんな反応になりませんでしたか。
 

神山:私がUターンで戻った2019年の頃は大体そんな感じでした。とくにそのときはITってちょっと軽んじられていた。そもそも情報システムも1つもなかったですし、結局、縁の下の力持ちではあっても、表では力がなかったなっていう印象があります。
 

稲垣:私もITから来たので似たような境遇を経験した気がします。ハンコを回していたり、ものすごくギャップを感じました。
 

神山:文化だからしょうがないかなと思ったのも事実ですけど、だからこそ文化を変えなきゃなみたいなところもすごくあって。
 

稲垣:2019年ということはそこからコロナもあって、オンライン会議とか何もできないみたいな感じになりやすいと思うのですが、どうでしたか。
 

神山:おっしゃる通りでして、2019年に転職して2020年にはコロナ禍に。でもその1年間で、ちょうど僕が基盤の整備をしていました。ネットワークの回線が細かったのでそのときに一番太いのに変えさせてもらったりとか、あとはコミュニケーション基盤のSlackを導入したり、Zoomもそうですね。Zoomミーティングを導入したりしていたらコロナがあって。基盤を整備してあったので、そこは何となく乗り越えたなっていう感じです。
 


社員コミュニケーション「本音を言ってもらわないとよくならない」

吉澤:社員の方々と変革を進めていく上で、コミュニケーションで意識されていることはありますか。
 

神山:やっぱり、みんなに本音を言ってもらわないとシステムってよくならない。本当はこうじゃないのに、あるべき論で言ってくる人とか、忖度して言ってくれる方もいますけど、そうでなくて本当のところを知りたいとは思います。みんなが当たり前に思っていることを言って欲しいんですけど、なかなか聞けないことが多くて。それをいかに引き出すかに僕らは苦労しているというか、頑張っているポイントかなと思います。
 

社内コミュニケーションや協力体制について話す神山さんと吉澤さん。

吉澤:竹鶴は、皆さんウイスキーと日本酒に対してどういう思いで取り組まれていますか。
 

稲垣:日本酒でいうと、うちはすごく大きな酒蔵だったんです。ピーク時で1万8000の量を作っていて、社員も100人以上いた時代がありました。でも僕が戻ってきたときは30人くらいになっていて、製造の規模も10分の1以下というような状態でした。そのとき感じたのは、大量生産をして日用品として販売していくという昔のビジネスモデルのままだということ。昔の酒蔵は作る期間が冬だけで、大人数で機械を使って作っていたんですけど、今のいい酒蔵は少人数で長い時間作っている。全然違うんですよね。うちの酒蔵とは図体が大きかったので方向転換はなかなかできないでここまできてしまった。今こそ改善すべきだと、未来に残っていける酒蔵としてどういう投資をしなきゃいけないのか、どういう酒作りしなきゃいけないのかを、みんなで話しながら進んでいます。
 


「デジタルはわかりやすく時間が短縮できる」「人がやるべきことで大事なのは、考えること」

吉澤:2つ目のテーマは移っていきたいと思います。未来に残すということを考えたときに、伝統として変えたこともある、変えなかったこともあると思います。判断やその背景を聞かせてください。


稲垣:変える、変えないを考えるにあたって、なぜそうだったのかとか、どうしてこういう作りをしているのかっていうことにおいて、裏がちゃんとしていることはすごく重視しています。「今までこうだったからこうです」という言葉が多くて、決して、こういうウイスキーを作りたいからこうしなきゃいけない、とかじゃなかった。そういうものはやっぱり変えていかなきゃいけないと思います。逆に。うちは創業当時からスモーキーなウイスキーを作ってきて、できるだけスモーキーな麦芽を仕入れることが昔からずっと続いていました。私自身もスモーキーなウイスキーが好きっていうのもあって、この部分は守りながら、理想的なウイスキーの姿を目指しました。そのために設備はどんどん変えていきましたが、スモーキーである。というところは一切変えなかったです。
 

スモーキーな味わいのブレンデッドウイスキー「サブ」

吉澤:おにぎりせんべいは僕も昔から食べていましたけれど、変わるところと変わらないところはありますか。
 

神山:会社の歴史を見ていると、おにぎりせんべいもいろいろ時代とともに変化をしていると思います。例えばパッケージもそうです。昔は三角の袋に入っていたんですけど、四角になった。あと味もそうですよね。醤油がメインですが実際はいろんな味が出て、でもそれも時代とともに変わっていっている。今は醤油と銀シャリです。
 

吉澤:デジタルツールの、いい面と、実は現場社員の、例えば感覚とかそういうところでやった方がいいようなところを教えてください。
 

神山:簡単にいうと、人がやらなくてもいいことは機械にやらせているし、コンピュータがやったらいいと僕は思っています。その方がすぐに効果が出ますから。例えば紙で書いたものを報告して、それをまたシステムで入力してその紙を保存するとかなるとすごい手間ですよね。デジタルであればスマホで入れたらそれだけで終わります。わかりやすく時間が短縮できる。だけど、人間がやっていることを機械と一緒にやると、すぐに効果が出ないようなシステムもあるので、それはまだちょっと難しいですね。
 

吉澤:今のお話だと人間がやらなくてもいいことをデジタルに置き換えていくことによって、創造的なこととか、あとはファンとのコミュニケーションとか、そういうところにあてていくっていうことなのかなと思うんですけども。ちなみに酒蔵でいうと、デジタル化ができるところとできないところはありますか。
 

稲垣:めちゃめちゃありますよ。ウイスキーの糖化をするときのお湯を、例えば65度で何リッター作るって、それは人がマニュアルでやるよりも絶対機械があった方がいいですね。人がやるべきことで大事なのは考えること。作業は機械にやらせて、65度に例えば何リッターでやったときにどんな品質になったのか、じゃあ次どうするっていうところ人間が担います。これが65度のお湯を作ることに一生懸命になっていたらそんな余裕がなくなっちゃうので、なるべく反復的な作業は機械にやらせて、機械ではできない創造的なことを人がやるっていうのが大事かなと思います。
 


「みんなにメディアになってもらう。“伝えたい”と思ってもらえることが大事」

吉澤:三つ目のテーマ「物語を届けてどういう共感を呼ぶか」に移っていきたいと思います。神山さんにお聞きしたいのは、伊勢エリアの企業には発信が得意じゃない中小企業の方も結構いらっしゃると思うんですけども、伝えるためには、どういうところが大事でしょうか。
 

稲垣:僕たちも最近、本当にマメに情報発信をするように心がけております。すごいことが起きたら情報発信しようと思っていると、なかなかすごいことって起きないんですよね。なのでちょっとずつちょっとずつ出していくことで、積み重ねていく。とくにITの世界は、積み重なると注目されることが多いと僕は思っています。本当に些細なことでもいいから発信していこうぜって僕は思っていますね。
 

吉澤:三郎丸蒸留所としての発信は、どんなことを意識されていますか。
 

稲垣:自分たちが発信することももちろん大事ですけれども、人に伝えたいって思ってもらえるところが結構大事かなと思っていて。来ていただいた人に写真を撮ってもらって、どんどん拡散していただくっていう点で、やっぱり伝えたいと思ってもらえるようなものを作っていくし、そういったところを強くすれば、みんながメディアになってくれるところがあるかなと思います。
 

あえて仕切りなどを作らないようにしたと稲垣さん。見学者は五感で蒸留所を感じることができます。
 

吉澤:発信をしてもらうための自分たちの物語みたいなことでしょうか。稲垣さんは三郎丸蒸留所のどこを、ストーリーとして伝えていきたいと思っていますか。
 

稲垣:やっぱり、スモーキーであることは唯一無二で。日本の蒸留所でスモーキーに特化したウイスキー作りをしているところってないんですよね。スモーキーなウイスキーって飲んでみないとどんなものかわからないから、まず手に取ってもらう。ハイボール缶も、小さい蒸留所だとなかなかそこまでやれるところは少ないですけれど、そういったものを通して、まず手に取ってもらって知ってもらう。ウイスキーはやっぱり700mlじゃないととか、ストレートで飲まないととか、そういうこだわりはあえて捨てて、まず手に取ってもらうにはどうしたらいいかということを考えています。

 

全国で売られている三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール。セブンイレブンやファミリーマートなど、コンビニの棚にも並びます。

「ブームから文化へ、意識を定着させていく」

吉澤:神山さんは本物づくりの話があったと思いますが、発信をする、それを支えている本物っていうのはどう作っていますか。どういう意識で、社員の皆さんが本物づくりをしているのかお聞きしたいです。
 

神山:非常に難しいテーマですが、本物って、従業員が本当に楽になるとか、従業員からありがとうと言われるのが本物だと思っています。特に僕らはグループ向けのシステムをやっていますので、「みんなが楽になったよ」と言われると本当に嬉しいし、そこが本物の肝だと僕は思っています。従業員一人ひとりが、情報や知識、スキルをたくさん持っているんです。でも僕は、それがなかなかわからないなかで、それらを集めてデジタルに反映させるっていうことをやる。現場の知識や製造現場の人の工夫をちゃんと集められることで、だんだん本物ができていくのかなって感じています。
 

吉澤:ウイスキーの蒸留所がたくさんできて変化していくなかで、この先、ここは変えていかなきゃいけないなと思っているところはありますか。
 

稲垣:私が戻ったときは日本にクラフト蒸留所は10社ぐらいしかなかったのが、今は100社くらいにまで増えています。スコットランドのウイスキー蒸留所も、200年前にすごく増えました。その多様性が今花開いて、スコッチ産業で1兆円を輸出しているんです。対して日本のウイスキーはまだ500億円くらい。そういう意味で、スコッチウイスキーのような確固とした産業になっていかなきゃいけないし、ブームから文化へというところで意識を定着させていきたいと思っています。
 

ウイスキーは木樽の中で最低3年の蒸溜を経て、世に送られます。
 

吉澤:ありがとうございました。最後に一言ずついただきたいと思います。まず神山さん、もしよかったら次回、三重セッションの見どころみたいなところをお話に入れていただきながら、今日の感想もいただいてもよろしいでしょうか。
 

神山:次回三重セッションということで、私どもが勤めております伊勢の工場に皆様に来ていただくのですが、今日ここで見学をさせていただいて、ガクガクしております。こんなすごいものはなかなかお見せできることではないですけども、我々は三重県の伊勢志摩地域でいろんなものをビジネス展開していますので、その辺の話をいろいろさせていただければなと思っています。富山もいいところですけども三重もいいところです。伊勢神宮もありますので、もしよかったら足をお運びください。
 

稲垣:今日は実際に三郎丸まで来ていただいて、ありがとうございました。これから冬に入ってくっていくと、富山県は寒ブリが大変美味しいです。寿司といえば富山県ですので、冬の富山の魅力もぜひ感じていただきたいです。ちなみに隣に併設するレストラン「炭三郎」では寒ブリが味わえますので、今日来られてない方も、オンライン参加の方も、ぜひ富山に来ていただければと思っています。

 

現地参加の皆さんと、お決まりの記念写真!交流会も行われ、充実の1日となりました。

登壇者プロフィール

ゲスト画像
稲垣 貴彦 氏
若鶴酒造代表取締役社長 兼 CEO
三郎丸蒸留所マスターブレンダー 兼 マネージャー
+ プロフィールを見る
ゲスト画像
神山 大輔 氏
IXデジタル株式会社 代表取締役社長
+ プロフィールを見る

文=川本央子


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