お腹が減っては戦はできぬ。旅の始まりはやっぱり美味しいご飯でエネルギーチャージからでしょう。ここ那智勝浦町では、まぐろを買って好きなところで食べるまぐろピクニック、略して「まぐピク」が主流らしい。
ということでやってきたのは「株式会社木下水産物株式会社」さんが運営する生まぐろの直売所。採れたてのまぐろがなんと200円で買えると聞いて思わず笑ってしまった。あまりの絶品すぎるねぎとろには「美味しい!」以外の語彙力がどこかに吹っ飛んでしまう。大人気らしく、売り切れは必須。早めの時間帯がおすすめ。
その後は北郡商店をはしごしてお惣菜をゲット。どれも安くて美味しそうで目移りしてしまう。手作りのお惣菜がこの値段で買えるなんてあまりにも贅沢だ。
ピクニックに選んだ場所は、真っ青な色が美しいブルービーチ那智。「海が青い」って当たり前なのだけど、ここの海は本当に青い。ぜひその目で確かめてほしい。
初めての「まぐピク」が美味しくないわけがなく、心も体も癒された。ねぎトロの味も、肉じゃがコロッケの味も、忘れがたい。
お腹がいっぱいになり次に訪れたのは、熊野の木々から香りを抽出し、リラクゼーションのプロダクトに落とし込んでいるmaffably(エムアファブリー)さんの店舗。お店の中には馴染みのある杉やヒノキを始め、和歌山ならではの梅や、珍しいクロモジの香りの製品がずらり。どれも天然物にこだわり、本当の木や果実の香りを楽しむことができる。ひとつひとつ香りを確かめていくと、どれもフレッシュで驚いた。「どれも天然ものなので、香りは鮮明ですし、何よりひとつひとつ香りが違うんですよ。その木や葉の個性が香りに出ているので、お気に入りを見つけてくださいね」と教えてくれた。
記憶は遠い日の思い出を連れてきてくれる。どれもなんだか何処か懐かしい香りがして、気持ちがふわーっと何処かを彷徨ってしまう。鼻から吸い込んで肺へと通っていく香りが清々しくて、まるで熊野古道で森林浴でもしている気分になった。
maffably(エムアファブリー)で使用している木は、許可を受けた森でのみ伐採している。必要なぶんだけ森から分けてもらい、余ったものはその地に戻して栄養へと返す。
プロダクトに対する姿勢にも、そのクオリティにも感銘を受けた。
次に訪れたのは、大自然が生み出した大渓谷「瀞八丁」を舟でまわる「瀞峡めぐり川舟クルーズ」。かつては暮らしの一部として根付いていた和舟を、現在はアクティビティとして体験することができる。自然に意識を集中することができるのも嬉しい。春にはたっぷりの新緑を、秋には紅葉を美しい川の水と、表情豊かな岸壁とともに楽しむことができる。
正直乗る前は「涼しくマイナスイオンを感じられれば良いな〜」と軽い気持ちで構えていた。実際に体験してみると、40分の乗船ではでは足りないくらい面白い。
足元を泳いでいく鮎の姿や、岩の間を飛んでいく鳥、さらさらと流れる雲、せせらぎ、体を抜けていく新鮮な空気。
船頭さんの話もこれまた興味深い。仕事として関わり始めた頃のことや、どうやってこの舟が人々の生活に根付いていたのかまで、色々な話をしてくれる。つい夢中で話を聞いてしまい、気づけばあっという間にスタート地点に戻ってきてしまった。
五感すべてが無理せずに、自然とオープンになる感覚が気持ち良い。間違いなくもう一度やってみたいアクティビティのひとつになった。
誰にでも忘れられないお店や味がある。私のいわゆる「思い出の味」は子供の頃プールサイドでよく食べたカップラーメンのカレー味だけれど、きっとこの仲氷店の、ふわふわの氷と手作りシロップが近所にあったのなら間違いなくこれが私の思い出の味だったと思う。「わたしも子供の頃から通ってました」と笑うのはこのお店に案内してくれた地元の女性。
こんなまあるくて優しい味のかき氷は初めてだ。それもそのはず、仲氷店の氷は72時間かけてゆっくりと凍らせる良質な “純氷”。スイスイと口に運んで、気づけばふわっとなくなってしまう。小さい子も、おばあちゃんもおじいちゃんも、おしゃれなお姉さんも次々とこの仲氷店に吸い込まれていく。わたしが頼んだのは宇治抹茶ミルクで、もちろん美味しかったのだけど食べているうちに他の人のかき氷に目移りしてしまう。
いちごも宇治金時も、ぜんぶ手作り。だからこそ小さな子供にも、安心して食べさせられる。部活の帰りにお小遣いをにぎりしめて寄り道したい店。
近所に住む子が心から羨ましくなった。
午後になると雨が降ってきた。バケツをひっくり返したような大雨だったけれど、それもまたこの湯の峰温泉の雰囲気にぴったり合う。温泉街全体がしっとりとした風に包まれ、優しい灰色の空に温泉の湯気が混じる。「ノスタルジック」という言葉が本当によく似合う。
ここ湯の峰温泉は開湯してなんと1800年。日本最古の湯として今も多くのファンが通う。日によってはに7度(!)もお湯の色が変化すると言われる天然温泉「つぼ湯」を筆頭に、古き良き湯の里には良質な温泉や宿が立ち並ぶ。
わたしが温泉の他にもうひとつこっそりと楽しみにしていたのが「湯筒」と言う川沿いに作られた温泉で作る温泉ゆで卵。生卵を購入して、90度のお湯の中に入れる。ザーザーと頭の上から聴こえる雨の音をBGMに、スカートをずぶ濡れにしながら真剣に卵と向き合う時間に笑いが込み上げてくる。こんな苦労して作った温泉ゆで卵が美味しくないわけがない。
作った温泉ゆで卵を食べながら、街を歩いてみる。
雨の湯の峰温泉は人通りも少なく、なんだか私だけタイムスリップでもしてしまったようだ。
沢山遊んだあとは宿へ。ずっと訪れてみたかった、清流を眺めながら温泉が楽しめる宿「川湯みどりや」さん。お部屋の窓の向こう側には立派な熊野の木々が広がり「良い景色ですねえ」と声をかけると「景観維持のために目の前の森もうちで買い取っているんです」とのこと。世界観へのこだわりが素晴らしくて感動してしまった。
お部屋も素敵だけれどわたしが更にはしゃいでしまったのはお料理。鮎の塩焼きやだし巻き玉子まで、何を食べても美味しい。つい何回もおかわりしてしまう。
楽しみにしていた川湯みどりやの温泉は、河原から温泉が湧き出る全国でも珍しい天然温泉。源泉をそのまま引いてきた露天風呂。肌にしっとり馴染む上質な泉質がたまらない。
夜は星空を眺めながら、昼は川のせせらぎに耳を澄ませながら。
疲れがお湯に溶けていく感覚を実感する。
今回は1泊だけだったけれど、1週間くらいのんびりと心の洗濯がしたくなった。