熊野本宮⼤社、トルコ記念館、くじらの博物館。多くの人を魅了してやまないのにはちゃんと理由がある。
「世界有数のスケールを誇るくじらの博物館があるんですよ」とまず案内されて訪れたのは、吉野熊野国立公園に位置する「くじらの博物館」。名前だけでは分からなかったけれど、よくSNSに上がっているバンドウイルカたちが泳ぐ美しい水中トンネルの写真を見せてもらい「ああ、あれかあ」とピンときた。
そのイメージだけを持って行ったものだから、まさかクジラに餌をあげたり、クジラ達が飛び回るショーを見ることもできるとは思わなかった。博物館の中にはセミクジラの大きな模型や、生態に関する資料もある。昔からクジラやイルカ達と密接に関わってきた太地町ならではの場所だなあとしみじみ感じる。もちろん噂のイルカのトンネルも美しかった。なんだあれは。自分まで水槽に入っているみたいで、いつまでも夢心地で立ち止まってしまった。
ちなみにくじらの博物館の近くには、巨大なくじらの尻尾のモニュメントがある。太地町内には、このようなクジラをモチーフとしたモニュメントが複数あるので、探してみるのも楽しいだろう。
くじら浜公園とくじらの博物館で目と心を癒したあとは軽く腹ごしらえ。太地町の玄関口「道の駅たいじ」へ。レストラン・直売所・観光情報の発信場所として、観光客も地元の人も多く立ち寄る。ここで食べられる名物料理がくじらの形をかたどった「くじらカレー」。大人も子供も可愛い!と食べる前から大いにはしゃいでしまう。
尻尾から食べようか、思いきって顔からいってしまおうか迷う。味は見た目に似合わずちょっとピリ辛。それがちゃんと大人の味で嬉しい。ふとお隣を見ると、ちょっと強面のお父さんも一生懸命にくじらカレーを頬張っていた。この愛らしさの前では、誰もが子供に戻れてしまうね。
お昼前だというのに賑わっていた。まさに太地町の玄関口という光景だ。
世界遺産、那智の滝。その滝が御神体になっているのが「⾶瀧神社」。大きな滝はいろんな観光地で見かけるけれどとにかく圧巻。あまりの迫力に口がぽかんと空いてしまう。滝の水には延命長寿の御利益があって、1杯で10年延びるらしい。少し考えて私は3杯をいただいた。30年あればもっともっといろんな場所に旅ができるかな、と思って。
滝のそばには日本一大きなおみくじもあって、みんなこぞって引いている。私のお目当てはその横にある、八咫烏のおみくじだ。ぽってりフォルムにきょとんとした目、3本の足で器用におみくじを掴んでいる。
揺れる濃い緑と滝の音。目では捉えられないけれど、この場所には絶対に神様が住んでいる。神聖な空気に包まれて、自然と背筋がしゃんとする。
パワースポットとしても、エンターテイメントとしても楽しめる場所だ。
もう一つの世界遺産といえば、熊野古道。ここは3つの霊場とそれらを結ぶ参詣道として2004年に、道自体が世界遺産に登録された。両側から押し寄せる緑の匂いや気配、地面に落ちる木漏れ日までもがとにかく美しい。空気を吸い込んだだけで細胞まで浄化されてしまいそうなくらい、澄んでいる。
何百年、何千年と人間の営みを静かに見守り続けた木々たちの目線は柔らかい。日々のほほんと生きているとつい忘れてしまう、植物も人も、地球に暮らす仲間なのだという感覚が押し寄せてくる。いつまでも、いつまでもこの緑に包まれていたくなる。
「四季で本当に、がらりと表情が変わるんですよ」と教えてもらった。これは全季節制覇しなくては。
たくさん歩いたあとは、紀伊勝浦駅の目の前にある和風創作居酒屋「bodai」さんでランチ。紀伊勝浦といえばなんと言ってもマグロ。ここでは名物「鮪(まぐろ)の中とろカツ定食」をいただいた。きちんと火が通ってあたたかなのに、しっとりレアな鮪と、甘口でさっぱりとした梅酒をペアリング。「和歌山は梅どころなので梅酒も沢山種類があるんですよ」とずらりと並べられ、嬉しい悲鳴。ノンアルコールの梅ジュースも豊富だ。心もほっぺたもとろけそうな鮪中とろカツ定食は、売り切れ必至。早めの時間に足を運ぶことをおすすめしたい。
壁には賑やかな居酒屋メニューが並び、これは夜も訪れたくなってしまった。
よく「何度でも通いたくなる喫茶」というセリフを耳にするけれど、わたしの中で一番しっくりくるのがこの喫茶ユータウン。ちゃきちゃきとよく喋るお母さんと、たまににこっと笑顔を見せてくれる渋いお父さんの最強タッグ。揚げたてドーナツはさくさくで、生地から作るホットケーキはふわふわで、クリームソーダはつやつやでキラキラ。
そしてお店の真ん中にはなんと野鳥が飛び交う鳥園がある。
ドーナツが大好物なのだと伝えると「本当は3個だけど、5個にしたげるね」とお母さんがスペシャルなおまけをしてくれた。
書いているとお母さんたちの顔を思い出す。ああ、また早く喫茶ユータウンに戻りたい。
通いたくなる喫茶店の、お手本を見つけた気がした。
トルコの日本好きはここからスタートしたのか。ヘビーだけれどきちんと知っておきたい「樫野崎(トルコ軍艦遭難慰霊碑・樫野埼灯台・トルコ記念館)」
明治23年。トルコの軍艦エルトゥールル号が、横浜港から母国に戻る途中樫野崎で遭難し、乗組員587人が犠牲になった大きな事件があった。その事件当時の写真やエルトゥールル号の模型、遺品などが飾られているのが樫野崎にある施設「トルコ記念館」だ。当時その生存者の捜索や救護に不眠不休であたったのが、ここ串本町の人々だったらしい。
これまでトルコを訪れるたびなぜ、日本人にここまで親切なのか心底不思議に思っていたが、ピースがカチッとはまった。長い歴史が、確かに今を形作っていることを肌で実感する。
記念館の周りには灯台、お土産屋さんもある。私は食べられなかったけれど、トルコのアイス「ドンドゥルマ」を食べられる場所も。次回こそチャレンジしたい。
新宮市の住宅の中に、ひときわお洒落な住宅が見えてくる。新宮市名誉市民、西村伊作さんが手がけた「旧チャップマン邸」だ。アメリカの宣教師、チャップマンの住居として使用されていたこの場所は、建築好きなら隅から隅まで舐めるように観察したくなるほど完成度が高い(と、思う)THE・大正モダンな作りだけれど、壁は角がすべて丸く削られていて、なんだか御伽噺にでも登場しそうな雰囲気を醸し出している。
家の中を歩いているだけで、ここには机を置こうかしら、ご飯はここでスコーンかしらと色々な好き勝手な妄想が頭の中を飛び交いたのしい。私の一推しのリビングからは、綺麗に手入れされたお庭も見える。こんな家に住みたいランキングがあるとしたら、間違いなく上位にはいるのではないか。
そしてなんと、現在ここはワーケーション施設としても利用ができるらしい。優雅に珈琲を飲みながら、大正ロマンな部屋で現代のPCを叩く時代錯誤な空間が出来上がるわけだ。非常に気になる。次回こそぜひ利用したい。
最後に訪れたのは熊野本宮大社。熊野三山と呼ばれる3つの神社のうちのひとつで、主祭神は家津美御子大神だ。⾶瀧神社同様、ピンとした空気が張り詰めていて、心地良い。ここでも3本足烏の「八咫烏」のグッズを沢山見かけて、すっかりファンになってしまった。
そこから徒歩で10分ほど歩くと見えてくるのが⼤斎原で、熊野本宮大社のあった旧社地だ。明治22年の大洪水をきっかけに、熊野本宮大社は現在の場所へ遷座した。夕暮れ時、沈んでいく太陽に照らされる⼤斎原の大きな鳥居の美しさはまさに圧巻の一言。風にあそぶ稲穂とのコントラストは絵画のような世界観で、しばらくじっと見入ってしまった。
熊野本宮大社から⼤斎原へ。こんなにエネルギーをもらえる場所を、お散歩コース気分でさくっと回れる地元の方が心底羨ましくなった。